はしがき

原子力安全委員会委員長 

佐藤一男

 原子力安全委員会は,これまで毎年原子力安全白書を作成して,原子力安全に係る活動やトピックスを国民の皆さんにご報告して参りましたが,この度,平成9年版原子力安全白書を公表する運びとなりました。

 原子力発電は日本の全発電量の約三分の一を占め,また国際的にも今や極めて重要なエネルギー源になっています。この原子力の開発利用のためには,安全確保が大前提であることは言うまでもありません。

 このためには,まず原子力施設の設置者等が,それぞれの社会的責任を自覚して,安全確保に最善の努力を尽くすことがまず必要です。また,国は,所管行政庁を通じて厳正な規制を行い,設置者等がその責任を十分に果たしていることを監視し,監督する責任を持っています。更に原子力安全委員会は,安全確保のための規制政策,核燃料物質や原子炉の安全規制,原子力利用に伴う放射線障害の防止の基本などについて,企画し,審議し及び決定することを任務としており,行政庁はその決定を十分尊重することとされています。このように,わが国の原子力安全行政に対して原子力安全委員会に課せられた責務は誠に重大なものがあります。

 このような安全確保の努力が実をあげ,国民の皆様に安心して生活していただくための不可欠の基盤は,原子力安全に対する国民の皆さんの信頼であります。誠に残念なことに,高速増殖炉もんじゅの2次系ナトリウム漏えい事故,東海再処理施設のアスファルト固化処理施設の火災爆発事故などが重なり,更にこれらの事故の際の処置や情報の取扱いに遺憾な点が見られるなどして,原子力安全に対する国民の信頼感,安心感は大きく損なわれてしまいました。

 原子力安全に対する国民の皆さんの信頼をいかにして回復するかが,今回の白書のテーマであります。信頼回復には,安全確保をより一層確実なものとするとともに,すぐれた安全の実績を積み重ねていくことが第一に必要です。これに加えて,国民の皆さんに対して,原子力安全に関する情報を公開し,安全に関する意思決定の過程を透明化し,更に国民の皆さんがこの意思決定に参画できる機会を提供することなど,「安心」へ目を向けた努力が重要であると考えます。原子力安全委員会は,もんじゅ事故を契機として,このための施策を展開して参りました。

 更に,一連の事故の原因等を探っていくと,根底にはセイフティ・カルチュアに欠けるところがあったことが明白になってきました。安全を確保し,真に国民の皆さんに安心して頂く為には,安全に携わるすべての個人と組織にすぐれたセイフティ・カルチュアがみなぎっていなければなりません。このことは,チェルノブイル事故以降,原子力安全委員会も機会あるごとに強調してきたところでありますが,これからも関係者の一層の注意喚起に努めていきたいと考えています。本白書も,その為の一助となることを心から願っています。

 原子力安全委員会は,本年10月をもって設置後満20周年を迎えます。また,最近では行政改革の動きも本格化して参りました。この機会をとらえて,これまでの施策を振り返り,原子力安全委員会の任務と責任は何か,何が国民の皆さんから求められているのか,これからの活動は如何にあるべきか,などについて基本的なところから議論を重ねることといたしました。この議論には,有識者の方々のみならず,人数には限りがありますが一般の国民の皆さんのご意見も頂戴し,これらも踏まえてできるだけ早く結論を得たいと考えています。

 以上の施策を含めて,原子力安全委員会は原子力安全確保のより一層の推進に最大限の努力を払って参る所存であります。本白書が,国民の皆さんのご理解を深める為の一助となれば幸いと存じます。

 なお,アスファルト固化処理施設の火災爆発事故への対応などさまざまな事情から平成8年版は刊行することができませんでしたので,今回お届けする白書は過去2年間の活動等をご紹介するものとなったことを申し添えます。

平成10年6月


本書の構成と内容

 本書は,第1編,第2編及び資料編から構成されている。

 第1編では,「原子力安全に対する信頼回復に向けて」と題し,一連の事故に関する調査審議状況や事故から得られた教訓を踏まえた原子力安全委員会の対応状況等を紹介している。

 まず,高速増殖原型炉もんじゅにおいて平成7年12月に発生した2次系ナトリウム漏えい事故に関する調査審議状況を紹介している。次に,動燃東海事業所アスファルト固化処理施設で平成9年3月に発生した火災爆発事故について,その調査審議状況を紹介している。さらに,これらの事故の調査審議の結果から得られた教訓を踏まえた原子力安全委員会を中心とする安全規制機関の対応を紹介している。

 第2編では,原子力安全委員会を中心とした安全規制機関における過去約2年間(平成8年1月〜平成10年3月)の活動,原子力施設全般に関する安全確保の現状を紹介している。

 資料編では,原子力安全委員会関係の各種資料,安全確保の実績に関する各種資料等をとりまとめている。


平成9年版原子力安全白書目次

第1編 原子力安全に対する信頼回復に向けて

 はじめに

 第1章 一連の事故への対応

第1節 もんじゅ事故の調査審議について
第2節 アスファルト固化処理施設火災爆発事故の調査審議について

 第2章 信頼回復に向けた取り組み

第1節 一連の事故の教訓を踏まえた施策
第2節 信頼回復に向けた今後の施策の展開
 おわりに

第2編 原子力の安全確保の現状

 第1章 原子力施設等の安全規制を中心とした安全確保

第1節 原子力施設等に対する安全規制の実施状況
1 実用発電用原子炉施設
2 試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設
3 核燃料施設
4 放射性廃棄物の処理・処分
5 核燃料物質等の輸送
6 放射性同位元素等

第2節 安全の増進に向けた取組

1 軽水炉でのプルトニウム利用
2 高経年化対策についての検討
3 シビアアクシデント対策
4 発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取扱いについての検討
5 商業用原子力発電施設の廃止措置
6 ICRP勧告を踏まえた国内法令の整備
7 原子力安全国際フォーラム

 第2章 環境放射能調査

第1節 自然放射線に関する調査
第2節 放射性降下物等の放射能調査
1 放射性降下物への対応
2 旧ソ連・ロシアの放射性廃棄物海洋投棄に係る対応
3 劣化ウラン含有弾の誤使用問題に関する環境調査
4 原子力施設周辺の放射能調査
5 原子力軍艦寄港に伴う寄港地沿岸及び周辺の放射能調査

 第3章 原子力発電所等周辺の防災対策

第1節 我が国の防災体系
第2節 防災対策の向上のための取組

 第4章 原子力の安全研究の推進

第1節 原子力施設等に関する安全研究の実施
第2節 環境放射能に関する安全研究の実施
第3節 放射性廃棄物処分に関する安全研究の実施
第4節 原子力施設等の安全性実証試験の実施

 第5章 原子力安全に関する国際協力

第1節 多国間協力等
1 国際原子力機関(IAEA)
2 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
3 放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
4 世界原子力発電事業者協会(WANO)による情報交換
5 国際会議「チェルノブイルから10年:事故影響の総括」の開催
6 原子力安全モスクワ・サミット
7 アジア原子力安全会議
8 国際原子力規制者会議(INRA)
第2節 二国間協力
1 規制情報交換等
2 安全研究協力
3 研修事業等
第3節 海外の原子力安全の現状
1 世界の原子力発電所の現状
2 旧ソ連,中・東欧の原子力安全をめぐる動向

資料編

1-1原子力安全委員会の当面の施策について
1-2原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について
2-1原子力安全委員会の組織
2-2公開ヒアリング開催実績一覧
2-2-1公開ヒアリング等の実施方法について
2-2-2原子力安全委員会委員長談話
2-3 (1)我が国の原子力発電所の運転・建設状況(電気事業用)
(2)実用発電用原子炉施設の新増設
2-4原子力発電所の立地地点
2-5 (1)平成7年度の原子力発電所(電気事業用)の放射線業務従事者線量当量実績
(2)平成8年度の原子力発電所(電気事業用)の放射線業務従事者線量当量実績
2-6 (1)平成7年度の実用発電用原子炉施設における放射性廃棄物管理状況
(2)平成8年度の実用発電用原子炉施設における放射性廃棄物管理状況
2-7 (1)原子力発電所のトラブルの報告件数一覧(法令に基づく報告)
(2)原子力発電所のトラブルの報告件数一覧(通商産業大臣通達に基づく報告)
(3)平成7年度原子力発電所におけるトラブルの概要(原子炉等規制法及び電気事業法に基づき報告のあったもの)
(4)平成8年度原子力発電所におけるトラブルの概要(原子炉等規制法及び電気事業法に基づき報告のあったもの)
(5)平成9年度原子力発電所におけるトラブルの概要(原子炉等規制法及び電気事業法に基づき報告のあったもの)
(6)平成7年度原子力発電所におけるトラブルの概要(通商産業大臣通達に基づき報告のあったもの)
(7)平成8年度原子力発電所におけるトラブルの概要(通商産業大臣通達に基づき報告のあったもの)
(8)平成9年度原子力発電所におけるトラブルの概要(通商産業大臣通達に基づき報告のあったもの)
2-8原子炉主任技術者試験実績
2-9 (1)試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設一覧表
(2)試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設立地地点
2-10(1)平成7年度試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における放射線業務従事者の被ばく管理状況及び放射性廃棄物管理状況について
(2)平成8年度試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における放射線業務従事者の被ばく管理状況及び放射性廃棄物管理状況について
2-11試験研究用原子炉及び研究開発段階にある原子炉施設における定期検査の状況
2-12(1)平成7年度の試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障について(原子炉等規制法に基づき報告があったもの)
(2)平成8年度の試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障について(原子炉等規制法に基づき報告があったもの)
(3)平成9年度の試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障について(原子炉等規制法に基づき報告があったもの)
(4)平成8年度の試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障について(科学技術庁長官通達に基づき報告があったもの)
(5)平成9年度の試験研究用原子炉施設及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障について(科学技術庁長官通達に基づき報告があったもの)
2-13(1)核燃料加工施設一覧
(2)再処理施設一覧
(3)主要核燃料使用施設等一覧
2-14核燃料施設(加工施設,再処理施設及び廃棄施設)立地地点
2-15(1)平成7年度核燃料施設における放射線業務従事者の線量当量
(2)平成8年度核燃料施設における放射線業務従事者の線量当量
(3)平成7年度動燃事業団東海事業所再処理施設における放射性廃棄物管理状況について
(4)平成8年度動燃事業団東海事業所再処理施設における放射性廃棄物管理状況について
2-16(1)平成7年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子炉等規制法に基づく事故・故障報告)
(2)平成8年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子炉等規制法に基づく事故・故障報告)
(3)平成9年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子炉等規制法に基づく事故・故障報告)
(4)平成7年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子力安全局長通達に基づく軽微な故障等報告)
(5)平成8年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子力安全局長通達に基づく軽微な故障等報告)
(6)平成9年度の核燃料施設における事故・故障の概要(原子力安全局長通達に基づく軽微な故障等報告)
2-17核燃料取扱主任者試験実績
2-18平成7年度及び平成8年度廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設における放射線業務従事者の被ばく管理状況について
2-19平成7年度及び平成8年度の放射性廃棄物の埋設・管理状況
2-20放射線障害防止法の施行状況
2-21平成6年度,7年度及び8年度放射性同位元素使用事業所等における放射線業務従事者の被ばく管理状況について
2-22放射線取扱主任者試験実績
2-23「国際原子力事象評価尺度(International Nuclear Event Scale)」について
2-24世界の原子力発電所の平均停止回数

編集後記に代えて