カラー口絵
はしがき
原子力安全委員会委員長
都甲泰正
原子力の開発利用を進めるに当たっては,安全の確保が大前提です。原子力安全委員会は,厳格な安全審査の実施,安全審査に用いる指針類の整備及び充実,地元の意見を参酌する公開ヒアリングの開催,故障・トラブル等の調査とその結果得られる教訓の安全確保対策への反映など,安全確保のための基盤となる重要な各種施策を推進しております。
原子力施設は,放射性物質を内蔵していることから,放射性物質の周辺環境への異常な放出を防ぐことが安全確保の基本となります。このため,原子力施設の設計,建設及び運転等の各段階において設置者等による安全対策が講じられるとともに,国においても,例えば,原子力施設の基本設計段階では,行政庁がまず安全審査を行い,さらにその審査結果について原子力安全委員会が独自に客観的立場から審査を行うなど,厳格な安全規制が行われています。また,原子力施設で故障・トラブル等が発生した場合には,徹底した原因究明を行い再発防止対策を講じており,そこから得られた教訓についても十分に反映することとしています。その結果,安全の実績が着実に積み重ねられています。
しかしながら,このような安全の実績に安住することなく,より一層安全確保のための努力を引き続き重ねていくことが重要です。特に,今後,運転年数が長期にわたる原子力発電所の増加が見込まれていることから,高経年化対策を進めていくことが重要です。原子力安全委員会においても,平成4年3月に取りまとめた関西電力(株)美浜発電所2号炉の事故報告書の中で高経年化対策の重要性を指摘したところです。
また,これまでの関係者の努力により,我が国の原子力発電所では,設計上想定している事象を大幅に越え炉心が重大な損傷に至る事故(シビアアクシデント)は,現実には起こるとは考えられないほど発生の可能性が小さなものとなっています。しかしながら,原子力安全委員会では安全性の一層の向上を図るとの観点から,平成4年5月,事業者が自主的にシビアアクシデント対策を行うことを強く奨励しています。
これらを踏まえ,行政庁において具体的検討が行われてきましたが,本年9月には,高経年化対策の一環として運転経験等の反映状況を定期的に評価する定期安全レビューについて,また,本年10月には,シビアアクシデント対策について,行政庁の検討結果が原子力安全委員会に報告されました。原子力安全委員会では,これら高経年化対策及びシビアアクシデント対策を総合的に検討することにより,原子炉施設の安全性を一層向上させることを目的として,本年9月,原子炉安全総合検討会を新たに設置しました。今後,行政庁の報告書の検討を含め,より一層の安全性向上に向けた検討を行っていくこととしています。
以上のように,原子力安全委員会は,安全確保上重要なものについてはもとより,安全性向上のための施策についても積極的に対処することとしております。今後とも,原子力の安全確保のより一層の推進に最大限の努力を払ってまいる所存でありますが,本書が原子力の安全確保に関する国民各位の理解を深める上で,一助となれば幸いです。
1994年12月
本書の構成と内容
本書は第1編,第2編,Q&A及び資料編から構成されている。
第1編では,原子力安全委員会を中心とした安全規制機関における過去約1年間の活動,原子力施設全般に関する安全確保の現状を紹介している。
第2編では,「原子力安全をめぐる国際動向について −セイフティ・カルチュアの醸成を中心として−」と題し,セイフティ・カルチュアの概念形成及び醸成のための国際活動について説明している。具体的には,まず,国際機関における活動の概要,その中で概念が形成されてきた原子力安全の基本的考え方であるセイフティ・カルチュアを説明するとともに,我が国を含む主要原子力国等においてセイフティ・カルチュアがどのように実現されているのかについて説明している。次に,セイフティ・カルチュア醸成のための国際的な活動として,はじめに,旧ソ連,中・東欧諸国に対する安全支援について,次に,国際機関が行っている安全評価,基準策定等のセイフティ・カルチュア醸成のための活動について,最後に,原子力安全に関する国際条約について説明している。
Q&Aでは,本年1年を振り返り社会的に関心の高かった事項について,一問一答の形で説明している。
資料編では,原子力安全委員会関係の各種資料,安全確保の実績に関する各種資料等を取りまとめている。
目 次
第1編 原子力の安全確保の現状
第1章 原子力安全委員会の活動
第2章 原子力施設等の安全規制を中心とした安全確保
1 規制の概要
2 放射線被ばく管理
3 放射性廃棄物管理
4 安全確保に係る規制活動の実績等
1 規制の概要
2 放射線被ぼく管理
3 放射性廃棄物管理
4 安全確保に係る規制活動の実績等
1 原子炉施設の故障・トラブル等の評価尺度
2 原子炉の解体
3 原子炉主任技術者
4 安全性実証試験等
5 軽水炉技術の高度化
1 規制の概要
2 放射線被ばく管理
3 放射性廃棄物管理
4 安全確保に係る規制活動の実績等
1 規制の概要
2 処理・処分の現状
3 放射線被ばく管理
4 放射性廃棄物管理
5 安全確保に係る規制活動の実績等
1 規制の概要
2 輸送の現状
3 設計及び容器の承認
1 放射性同位元素等の取扱いに係る規制の概要
2 安全管理対策の実施等
第3章 環境放射能調査
1 放射性降下物等への対応
2 旧ソ連・ロシアの放射性廃棄物海洋投棄に係る対応
第4章 原子力発電所等周辺の防災対策
1 我が国の防災体系
2 緊急技術助言組織の設置
3 中央防災会議の決定
4 原子力安全委員会の活動
5 関係行政機関等の対応
第5章 原子力の安全研究
1 低レベル放射性廃棄物処分の安全研究
2 高レベル放射性廃棄物等の処分の安全研究
第6章 国際協力
1 国際原子力機関(IAEA)
2 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
3 放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
4 国際海事機関(IMO)
1 規制情報交換等
2 安全研究協力
1 世界の原子力発電所の現状
2 ロシアの原子力安全をめぐる動向
第2編 原子力安全をめぐる国際動向について −セイフティ・カルチュアの醸成を中心として−
第1章 セイフティ・カルチュアの概念形成
1 原子力安全確保に関連する国際機関の概要
2 国際原子力機関(IAEA)
3 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
1 原子力安全に対する基本的考え方の変遷
2 セイフティ・カルチュアの概念形成
1 主要原子力国における状況
2 我が国における状況
3 アジア諸国における状況
4 旧ソ連,中・東欧諸国における状況
第2章 セイフティ・カルチュア醸成のための国際的な活動
1 国際機関による安全支援
2 我が国による安全支援
3 その他の国々による安全支援
1 国際原子力機関(IAEA)による活動
2 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)による活動
3 事故・故障情報の活用に関する活動
4 我が国による国際的活動
1 原子炉施設に関する原子力安全基準(NUSS)
2 放射性廃棄物管理安全基準(RADWASS)
3 電離放射線の防護及び放射線源の安全に対する国際的な基本安全基準(BSS)
4 放射性物質安全輸送規則
1 原子力の安全に関する条約(原子力安全条約)
2 その他の条約
資料編