第6節 核燃料物質等の輸送

1 安全規制の概要

 核燃料物質等の輸送の安全規制は,陸上輸送については原子炉等規制法に基づき科学技術庁,運輸省及び都道府県公安委員会により,海上輸送については船舶安全法に基づき運輸省及び海上保安庁により,また,航空輸送については航空法に基づき運輸省により,それぞれ実施されている。

(1) 陸上輸送の安全規制
 科学技術庁は,核燃料輸送物(核燃料物質等を輸送容器に収納し,輸送する状態としたもの。)に関する安全基準を,原子炉等規制法に基づく総理府令「核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則」等に定めている。核燃料輸送物が規則で定める場合に該当するときは,輸送のつど,核燃料輸送物が安全基準に適合するものであることの確認が行われる。この安全基準は,核燃料輸送物が輸送中に通常受ける振動,衝撃等に耐えることはもちろんのこと,荷役作業中の誤操作,運送中の交通事故等の事故時においても,安全性を損わないようにとの観点から国際原子力機関(IAEA)が定めた規則に基づいている。
 核燃料輸送物の確認に当たっては,まず,核燃料輸送物の設計が安全基準に合致するものであることについて,科学技術庁の詳細な審査を経て,その結果,妥当と認められるものについて,設計承認が行われる。次に,個別の輸送容器が承認された設計どおりに製作され,保守されていることが点検された上で容器の承認が行われ,最後に,輸送のつど,収納する核燃料物質等が承認された設計仕様に合致し,かつ,これが承認された容器に収納されていることの確認等がされたのち,科学技術庁長官又は指定運搬物確認機関の運搬確認証が交付される。指定運搬物確認機関としては,(財)原子力安全技術センターが1987年1月27日に科学技術庁長官の指定を受けている。
 一方,運輸省は,車両への核燃料輸送物の積載方法,車両及び核燃料輸送物等に係る標識並びに車両1台半たりの積載限度等の輸送方法に係る安全基準を原子炉等規制法に基づく運輸省令「核燃料物質等車両運搬規則」等に定めている。この規則も輸送物の場合と同様に,輸送の安全の観点からIAEAが定めた規則に基づいている。核燃料輸送物が規則で定める場合に該当するときは,輸送のつど,輸送方法が安全基準に適合するものであることについて確認がなされたのち,運輸大臣の核燃料輸送物運搬確認証が交付される。また,使用済燃料等で画一的に反復継続して行われる輸送については,申請に基づき,積載方法の承認が行われ,輸送のつど,指定運搬方法確認機関が輸送方法の確認を行い,確認証を交付している。指定運搬方法確認機関としては(財)原子力安全技術センターが1987年1月27日に運輸大臣の指定を受けている。
 さらに,核燃料物質等を陸上輸送する場合には,あらかじめ,運搬の経路を管轄する都道府県公安委員会(以下「公安委員会」という。)に届け出て,届出を証明する運搬証明書の交付を受けなければならない(運搬の経路が2つ以上の公安委員会の管轄する区域にわたる場合には,発送地を管轄する公安委員会を経由して届け出ることとされている。)。届出を受けた公安委員会では,通過地及び目的地を管轄する公安委員会に通知し,意見を聴いた上で,運搬の日時,経路,車両の速度,車列の編成,車両相互間の距離等について必要な指示をすることができることとされている。
 また,運搬の経路を管轄する都道府県警察は,必要に応じてパトロールカー,警察官等を配置するなどの措置を講じている。このほか,公安委員会においては,核燃料物質等の運搬,警備の適正な運営を確保するため,警備業法の規定に基づき当該警備業務に従事する警備員等について検定を行うなど,その資質の向上に努めている。

(2) 海上輸送の安全規制
 海上輸送の場合においても,基本的には陸上輸送の場合と同様の安全規制が行われている。すなわち,運輸省は,核燃料輸送物に関する安全基準及び船舶への積載方法,標札等核燃料輸送物の運送の方法に関する安全基準を船舶安全法に基づく運輸省令「危険物船舶運送及び貯蔵規則」等に定め,規則に定める場合に該当するときは船積みのつど,核燃料輸送物及び運送の方法がこれらの安全基準に適合するものであることの確認を行っている。
 なお,核燃料輸送物に関する安全基準は基本的には陸上輸送に供される核燃料輸送物に関する安全基準と同等であり,したがって,陸,海一貫輸送される核燃料輸送物については,原子炉等規制法に基づく科学技術庁又は指定運搬物確認機関の確認が行われた場合には船舶安全法に基づく運輸大臣の確認を受けたものとみなすことになっている。
 また,核燃料物質等を船舶輸送する場合には,あらかじめ,当該船舶の船長は発航港(発航港が本邦以外の地である場合は,本邦における最初の寄港地)を管轄する管区海上保安本部の長に対して,放射性物質等運送届を提出することが必要であり,管区海上保安本部の長は,災害を防止して公共の安全を図るため,必要があると認めるときは,運送の日時,経路等について必要な指示をすることができることとなっている。
 さらに,輸送船の入出港時等においては,状況により,巡視船艇を配備するなどの措置を講じている。

(3) 航空輸送の安全規制
 核燃料物質等の航空輸送に関する安全基準は,基本的に陸上輸送の安全基準と同等であるが,陸,空一貫輸送の場合,航空輸送のための追加要件に関しては航空法に基づく運輸大臣の確認が必要であり,それ以外の確認事項について原子炉等規制法に基づく内閣総理大臣又は指定運搬物確認機関の確認が行われた場合には,航空法に基づく運輸大臣の確認を受けたものとみなされる。

2 輸送の現状

 我が国では,発電所洋低濃縮ウラン等の新燃料及び発電所からの使用済燃料の輸送頻度及び輸送量がこの数年定常的に推移している。なお,このほかに,新型転換炉(ATR),高速増殖炉(FBR)等の研究開発に伴うウラン−プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の輸送を実施されている。発電所用核燃料物質の輸送実績は表1−12のとおりである。

 発電用低濃縮ウランの場合,主な輸入先は米国,仏国及びドイツであり,輸入された天然六フッ化ウランはウラン濃縮工場へ,濃縮六フッ化ウラン及び濃縮二酸化ウランはウラン燃料加工施設へ輸送される。燃料集合体に加工された二酸化ウランは,ウラン燃料加工施設から各原子力発電所へ輸送されている。これらの核燃料物質の輸送は,国内においては主としてトラック又はトレーラーによる陸上輸送が行われている。
 また,国内における使用済燃料の輸送は,各原子力発電所から動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場へ使用済燃料専用運搬船(図1−6参照)による海上輸送が行われている。東海再処理工場への使用済燃料の輸送実績は1992年に58トン・ウランであった。

 一方,我が国から外国への輸送としては,現在,使用済燃料の再処理を海外に委託しているため,使用済燃料が各原子力発電所からイギリス核燃料公社(BNFL)又はフランス核燃料公社(COGEMA)に専用運搬船により海上輸送されている。海外再処理工場への使用済燃料の輸送実績は1992年に420トン・ウランであった。
 なお,これらの使用済燃料の再処理に伴い発生するプルトニウムについては,我が国に返還輸送し核燃料として使用することとされている。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替燃料製造に使用する約1.1トン(核分裂性プルトニウム量)のプルトニウムのフランスから日本への海上輸送については,輸送船「あかつき丸」により,1992年11月上旬にフランスを出港し,1993年1月5日茨城県東海村の日本原子力発電(株)東海港に入港した。この「あかつき丸」によるプルトニウム輸送は,新日米原子力協定の海上輸送のガイドライン(回収プルトニウムの国際輸送のための指針)に基づく最初の輸送であり,日米政府間及び日仏政府間の協議が行われるとともに,動力炉・核燃料開発事業団が輸送の実施主体となり,海上保安庁の巡視船「しきしま」による護衛を始め,関係機関の協力の下に行われた。
 輸送の経路は,フランスのシェルブールを出て大西洋を南下し,インド洋,南太平洋を通過するものであり,約2ヵ月間にわたる航行であったが,安全確保のため,衛星航行装置,衝突防止用レーダ等衝突事故防止等に必要な装置が装備された。また,船体も二重構造とし,火災対策として延焼を防止する防火構造とするとともに,万一の場合にも,船倉に水を満たす装置を整備するなど,慎重な計画の下に実施され,無事終了した。
 以上のように核燃料物質の輸送は,関係省庁による厳重な安全規制及び事業者による安全対策の下に行われており,その結果,我が国においては,1979年に核燃料物質の事業所外運搬の安全規制体制が整備されて以来,輸送に関する事故は1件も報告されていない。
 我が国の核燃料サイクルにおける主な輸送の流れを図1−7に示す。

3 設計及び容器の承認

 1993年3月末現在,科学技術庁の承認を受けた核燃料輸送物の設計は68形式であり,科学技術庁の承認を受けた輸送容器は13,900個である。
 また,同時点で,運輸省海上技術安全局長の承認を受けた核燃料輸送物の設計は19形式であり,運輸省の承認を受けた輸送容器は167個である。

4 輸送の安全基準等の整備

 現行の我が国の輸送の安全基準は,IAEAの放射性物質安全輸送規則(1985年版)を国内法令に取り入れ,総理府令,運輸省令に具体的に定められている。
 取り入れに当たっては,原子力安全委員会放射性物質安全輸送専門部会が調査審議を行い,これに基づいて同部会が「IAEA放射性物質安全輸送規則(1985年版)の国内規則の取り入れについて」を作成し,1990年8月9日,原子力安全委員会に報告した。同委員会では,1990年8月23日に,この報告の内容は「放射性物質の輸送の安全確保及び国際間輸送の円滑な実施を図る上で適当である。」旨の決定を行った。さらに内閣総理大臣,科学技術庁長官,及び運輸大臣から放射線審議会に対し,関係国内規則への同規則取り入れに関し諮問がなされ,同審議会では,1991年9月25日に「取り入れは適当である。」旨の答申を行った。
 これを受けて,1991年1月1日付けで輸送の安全基準等に係る関係国内規則が施行されている。
 返還廃棄物の輸送の安全性については,1984年9月から放射性物質安全輸送専門部会において調査審議が行われ,1987年9月「海外再処理に伴う返還廃棄物輸送の安全性について」を取りまとめ,原子力安全委員会に報告,同年10月に了承されている。
 なお,同部会において,IAEAにおける放射性物質安全輸送規則の検討に対応した調査審議が行われている。
 一方,科学技術庁,運輸省,海上保安庁,警察庁及び消防庁からなる放射性物質輸送関係省庁は,安全輸送対策等について連絡会を設けて協議を行っており,1984年2月には事故時安全対策に関する措置について合意している。