第1編 原子力の安全確保関連施策の現状

第1章 原子力安全委員会の活動

 原子力安全委員会は,原子力安全確保のための体制を強化することが不可欠な措置であるとの判断のもと,原子力の安全規制等について行政庁の諮問に応じ,またはその自主的判断により企画し,審議し,決定する機関として1978年10月に発足した。
 原子力安全委員会の任務は,原子力基本法等に基づき,@安全確保のための規制政策,A核燃料物質及び原子炉の安全規制,B原子力利用に伴う障害防止の基本等に関して企画し,審議し及び決定することである。原子力安全委員会はこれらの任務遂行に当たり,安全審査,各種指針の整備,安全研究の推進及び公開ヒアリングの開催等の活動を行っている。以下にその概要を示す。

 (1) 安全審査

 原子力安全委員会は,開発推進の任にある行政庁とは別の客観的な立場から,審査指針等に照らし,行政庁の安全審査の結果を再審査(ダブルチェック)するとともに,それぞれの行政庁の安全規制を統一的に評価している。
 原子力安全委員会の審査は,対象となる原子力施設の
 @ 既に設置許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用
 A 新しい技術上の基準又は実験研究データの適用
 B 施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連
 等に関する安全上の重要事項を中心に行うこととしており,原子炉施設については原子炉安全専門審査会,核燃料施設については核燃料安全専門審査会で慎重な審査を行っている。
 行政庁の諮問に応じて,原子力安全委員会がダブルチェックを行い1991年4月から1992年9月末までに答申した案件は34件であり,そのうち主なものは以下のとおりである。

 (2) 指針類の整備

 原子力安全委員会は,安全審査の客観性,合理性を高めるとともに行政庁間の安全規制の斉一化を図るため,指針等を整備している。この整備に当たっては,最新の科学技術的知見を取り入れることとし,知見の進展に応じて逐次見直しのための検討を行っている(資料編4−4から4−6を参照)。
 1991年4月以降新たに策定及び改訂された指針類は,
 ・「水冷却型試験研究用原子炉施設に関する安全設計審査指針」
(1991年7月 策定)
 ・「水冷却地試験研究用原子炉施設の安全評価に関する審査指針」
(1991年7月 策定)
 ・「軽水地動力炉の非常用炉心冷却系の性能評価指針」
(1992年6月 改訂)
 ・「原子力発電所等周辺の防災対策について」
(1992年6月 改訂)
 ・「緊急時環境放射線モニタリング指針」
(1992年6月 改訂)
 である。
 また,下部機関である専門審査会及び専門部会においては,以下のような指針の策定(改訂)に資する検討のほか,事故・トラブル等に関する調査審議及び安全審査における基準等についての検討を行っている。1991年4月以降の主な検討内容は以下のとおりである。

 @ 原子炉安全専門審査会は,1991年2月9日に,関西電力(株)美浜発電所2号炉において発生した蒸気発生器伝熱管破損事故に関する調査審議を事故直後から行い,1992年3月,今後の安全確保の一層の推進の観点から,技術の進歩等の既設施設への適切な反映方策の検討,高経年炉の増加に対応した施設の維持基準等の適切な見直しなど6項目の提言を含む調査審議結果を取りまとめ,原子力安全委員会に報告した。原子力安全委員会は,同日,同専門審査会からの報告を了承するとともに,本事故に対する認識,今後の方針等についての見解を取りまとめた。

 A 原子力安全委員会の決定した「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下,「安全設計審査指針」という。)では,配管の破断によって発生する飛来物に対する設計上の考慮を要求している。
 原子炉安全基準専門部会は,この際にLBB(Leak Before Break;破断前漏えい)概念を導入することの安全設計審査指針への適合性について検討を行っていたが,1992年3月,配管の材料,運転管風等の一定の前提条件が満足されれば想定する配管の破損の形態の決定にLBB概念を導入することは問題ないとする検討結果を取りまとめ,原子力安全委員会に報告,了承された。

 B 原子炉安全基準専門部会は,原子力発電所内における使用済燃料の貯蔵方式について,使用済燃料プール以外の貯蔵方法として具体的な検討が進められている乾式キャスクによる貯蔵を採用する場合の安全審査に当たって確認すべき事項に係る検討を行っていたが,1992年7月にその検討結果を取りまとめ,原子力安全委員会に報告,同年8月に了承された。

 C 放射性廃棄物安全基準専門部会は,廃棄物埋設事業の対象物の範囲及びその放射能濃度の上限値等に関する調査審議を行っており,原子炉施設において発生する濃縮廃液,使用済樹脂等を固型化材料を用いて容器に固型化したものを対象とした放射能濃度上限値に関する検討結果を1986年12月に放射性廃棄物安全規制専門部会が取りまとめたのに引き続き,原子炉施設において発生する金属,塩化ビニル等の不燃物,難燃物を固型化材料を用いて容器に固型化したもの,原子炉施設の解体等に伴って発生する金属製の大型機械等で,容器に固型化することが困難なもの等を対象とした放射能濃度上限値に関する検討結果を1992年4月に取りまとめ,原子力安全委員会に報告,同年6月に了承された。

 (3) 公開ヒアリングの開催

 原子力の安全性について国民の理解と信頼を得るためには,厳正な安全規制を実施し,安全性を確保すると同時に,国民と十分な意思の疎通を図ることが必要不可欠である。
 このため,原子力安全委員会は,1976年に内閣総理大臣に堤出された原子力行政懇談会の意見に沿って,実用発電用原子炉等主要原子力施設の設置許可等に係るダブルチェックに当たっては当該施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し,これを参酌することを目的として,公開ヒアリングを実施してきた。
 公開ヒアリングの終了後,すみやかに公開ヒアリングの状況を取りまとめ,公表するとともに,公開ヒアリングにおいて地元住民から聴取した意見等のうち,その施設固有の安全性に係るものについては,原子力安全委員会及び専門審査会における調査審議の際に,これらを参酌し,当該施設の安全性等に係る行政庁への答申の際に,その結果を公開ヒアリングにおける意見等の参酌状況報告書として取りまとめ公表してきた。
 原子力安全委員会は,1992年6月末現在で地元意見を聞く会等も含め,計19回の公開ヒアリングを,地元の協力を得て原則として地元市町村において開催してきた(資料4−1参照)。
 1991年4月以降に開催した公開ヒアリングは,日本原燃サービス株式会社(現日本原燃株式会社)六ケ所事業所における廃棄物管理の事業及び再処理の事業に係る公開ヒアリング(1991年10月30日,青森県上北郡六ケ所村にて開催)である。

 (4) 安全研究の推進

 原子力施設の安全規制を行うに当たっては,常に最新の科学技術の成果を取り入れ,行政庁及び原子力安全委員会における審査に反映させていくことが肝要である。原子力安全委員会は,安全研究を総合的,計画的に推進していくため,原子力安全研究の年次計画を策定し,研究の成果の評価及び活用を積極的に行っている。1992年6月には,1986年度から1990年度の間に行われた高レベル放射性廃棄物等安全研究の成果報告を取りまとめた。   現在は,1989年及び1990年に策定された5ヵ年計画に沿って安全研究を推進している。

 ・「低レベル放射性廃棄物安全研究年次計画」(平成元年度〜平成5年度)
(1989年3月 策定)
 ・「原子力施設等安全研究年次計画」(平成3年度〜平成7年度)
(1990年9月 策定)
 ・「環境放射能安全研究年次計画」(平成3年度〜平成7年度)
(1990年9月 策定)
 ・「高レベル放射性廃棄物安全研究年次計画」(平成3年度〜平成7年度)
(1990年10月 策定)

 (5) シビアアクシデント対策

 シビアアクシデントに関する研究は,米国スリーマイルアイランド事故(以下「TMI事故」という。)(1979年3月),旧ソ連チェルノブイル事政(1986年4月)等を背景として世界的に広く行われるようになり,我が国においても1987年7月に,原子力安全委員会の下部機関である原子炉安全基準専門部会に共通問題懇談会を設置し,軽水炉を対象にシビアアクシデントに関して検討を開始した。同懇談会は,1990年2月にシビアアクシデントに関する知見及びそれまでに得られていたPSA(Probabilistic Safety Assessment;確率論的安全評価)の一部について中間的に報告書を取りまとめるとともに,更にシビアアクシデント対策について技術的な検討を進め,1992年2月に「シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントに関する検討報告書−格納容器対策を中心として−」を取りまとめた。これは,近年,シビアアクシデントへの拡大防止対策及びシビアアクシデントに至った場合の影響緩和対策(アクシデントマネージメント)が軽水炉の安全性の一周の向上を図る上で重要であると認識されていること,また,アクシデントマネージメントの一部として海外諸国において格納容器対策が採択され始めていることを踏まえ,我が国が採るべき考え方について取りまとめたものである。これを受け,原子力安全委員会は,1992年5月,「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて」を決定した。本決定では,我が国の原子炉施設では厳格な安全確保対策により,シビアアクシデントは工学的には現実に起こることは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものの,アクシデントマネージメントの整備は安全性の一層の向上に資するものであり,その実施は強く奨励されるべきであるとの判断を示した上で,今後各原子炉ごとの実施方針について順次行政庁から報告を受ける等の方針を明らかにした(資料4−3参照)。

 (6) 原子力安全国際フォーラムの開催

 青森県六ケ所村に建設が計画されている商業用再処理施設について,原子力安全委員会においてダブルチェックを行っていること等の状況を踏まえ,再処理施設の安全規制や運転経験等について諸外国の専門家と意見交換を行い,我が国の安全確保に資することを目的として,1992年1月21日,約100人の聴衆を得て,第3回原子力安全国際フォーラムを東京で開催した。
 今回のフォーラムでは,日,英,仏の専門家が基調講演を行い,再処理施設の安全確保の考え方やこれまでの運転経験等が報告された。また,日,英,仏の専門家によるパネルディスカッションでは,トラブルに基づく教訓,安全評価におけるPSAの活用と展望等に関して有意義な意見交換がなされた。