第5節 安全解析コードの開発等

 日本原子力研究所,原子力安全解析所,動力炉・核燃料開発事業団等の機関においては,原子力施設の安全性につきコンピューターを用いて解析評価する目的で,計算コードの開発,改良整備,並びに関連データの収集が進められている。これまでのところ,軽水炉,核燃料施設等が主要な解析の対象として取り上げられており,計算コードを実際のプラントに適用するに際して,適切な安全解析・評価ができるよう,安全解析の手法,コード化の手法等の研究が行われている。各機関で開発,整備された安全解析コードは,原子力安全委員会,科学技術庁,通商産業省が安全審査を行う際に用いられ,安全性の評価判定に大きな貢献を果している。
 計算コードの自主開発と平行して,海外で開発されたコードを導入し,整備検証を経た後,国内のプラントに適用する方法も広く用いられている。また,これとは逆に国内で開発,整備された計算コードを,OECD/NEAのデータバンク等を通して一部海外に公開するなど,原子力の安全確保のための国際的な協力体制の一環として積極的な活動が行われている。
 さらに近年,運転経験を原子力施設の安全性及び稼動率の向上に役立てる観点から,OECD/NEAを通して,各国で経験された異常事象に関する情報を収集し,分析評価する研究が開始されている。

1 日本原子力研究所

(1) 燃料安全性評価コードの整備開発
 燃料安全性評価コードは,一般に原子炉の通常運転時における燃料挙動を解析するものと事故時における挙動を解析するものとに分けて開発されている。
 これは両者の解析対象時間が大きく異なること,また被覆管の温度レベルが大きく違うことから,解析対象となる現象が異なる等の理由による。日本原子力研究所では通常運転時の燃料コードとしてFEMAXIが開発されてきた。これまでに通常運転時の燃料挙動解析用としてFEMAXI−IIIが完成し,運転時の異常な過渡変化も扱えるFEMAXI−IVについては,国際協力等から得られたデータを用いてコードの検証を行い,開発を終了した。
 事故時の燃料コードとしては,主としてLOCA時の燃料挙動を扱うFRETA−Bが完成し,研究所内外で利用されている。また,既に開発された反応度事故時の燃料挙動を扱うNSR−77コードについて性能向上のための改良が進められている。

(2) 構造安全解析コードの整備及び解析
 原子炉冷却系配管の動的挙動を解析するコードとして導入・整備したADINAコードを用いて,き裂つき配管から冷却水が漏洩している際の配管表面温度を入力データとして,き裂閉口量を求めた。

(3) 原子炉安全解析コードの整備開発

 (i) 軽水炉過渡解析コードの開発
 LOCA時のECCS性能を評価するコードシステムの開発は完了し,事象をより忠実に解析するいわゆる最適予測モデルを基本とする過渡解析コードの開発が進められている。
 大破断LOCAの再冠水過程に関して,大型再冠水効果実証試験及び小型再冠水試験に基づき,最適予測モデルが開発され,再冠水解析コードREFLAに組み込まれた。本モデルをPWR事故最適予測コードJ−TRACへ組み込む等によって,予測精度の向上が可能となった。TMI事故に代表される小破断LOCAの解析については,米国NRC,仏CEA西独GRSから協定に基づき解析コードを入手し,ROSA−IV計画における実験結果を用いて検証と改良を進めている。また,二相流現象の解析のための熱流動解析コードMINCSとプラント全体のシミュレーションのための解析コードTHYDE−Wの開発が進められ,昭和63年度に開発を完了した。さらに,加圧熱衝撃(PTS)事象時の圧力容器健全性評価コードシステムについても平成元年度に開発を完了した。平成元年度以降,原子力発電所で実際に起きた事故・故障事象の解析とそれに必要な計算コードの整備に重点を移している。

 (ii) 炉心損傷事故解析コードの開発
 TMI事故のようなシピアアクシデント時には,炉心から放出された核分裂生成物(FP)は,一次系及び格納容器内で種々の除去過程により除去されるが,軽水炉の持つリスクを精度良く評価し,安全裕度を定量的に評価するためには,これらの除去割合を考慮し環境中へのFPの放出量(ソースターム)を現実的に求める必要がある。そこで,米国NRCとのCSARP(平成2年7月までは旧称SFD)協定を通して,STCP,MELCORコード等のソースターム総合評価コードや炉心損傷詳細解析コードSCDAP/RELAP5,事故時格納容器挙動解析コードCONTAIN等を入手し,シビアアクシデント現象の解明やソースターム評価に役立てている。また,上記入手コードを補完する形で,格納容器内のFP挙動を解析するREMOVALコードやサプレッションプール等でのFP挙動を解析するコードの開発が進められている。

(4) 確率論的安全評価手法の開発
 確率論的安全評価では,多重故障や人的過誤の発生などシステムの機能喪失に係るすべての要因を総合的かつ定量的に評価し,大きな被害をもたらすような事象発生頻度やその事象による影響の大きさ(その積をリスクという。)を評価する。この手法の有用性から,日本原子力研究所においても昭和55年度から研究開発が進められている。研究の目標は,我が国の状況に適合する標準的評価手法を提供することにある。これまで行われてきた主な研究は,信頼性解析手法,炉心損傷事故解析手法,地震リスク評価手法の確立とそれらの安全上の課題への適用である。信頼性解析の分野では,フォールトツリー手法等に基づく解析手法と機器故障率データベースが開発・整備された。炉心損傷事故解析の分野では,事故時の熱水力挙動及び核分裂生成物挙動を解析する計算コード体系が開発された。また,これらの手法等を用いて,事故マネージメント手段の有効性解析,軽水炉モデルプラント(BWR)のレベル2PSA等を実施した。地震によるリスク解析手法の開発では,地震危険度や地震時機器損傷確率を計算するコード等が開発された。

(5) OECD/NEA/IRS情報検索システムの開発
 原子力発電所の安全維持と稼動率向上には,運転経験情報を収集管理し,系統的な分析を行って,有用な教訓を規制,設計,運転などに反映させることが重要である。日本原子力研究所では,OECD/NEAがとりまとめているIRS(Incident Reporting System:事故通報システム)情報を収集,管理,検索する計算機システムの改良・拡充が進められている。
 そのデータの更新と特定の事例の分析を行ったほか,分析評価に有用な原子力プラントのデータベース整備が併せて行われている。

(6) 原子炉事故診断システムの開発
 原子力発電所で事故が発生した場合,事故原因の解明及び進展予測を行うのに必要な情報を得るために事故時炉内解析システムの開発が進められている。この一環として知識工学を用いて事故原因を同定する診断システムの開発が行われている。このシステムは,プラントの設計データ,過渡現象の特徴等を集大成した知識ベースと,これとプラントから送られてくる情報から事故の原因,種類を確率的に診断する推論機構とからなっている。これまでにプラント診断に通した推論用解析コードIERIASを中核とする診断システムDISKETが開発され,加圧水型原子炉シミュレータを用いて性能評価が行われ,知識工学的手法の有効性が確認された。現在DISKETの手法を研究炉に適用する研究が進められている。

(7) 核燃料施設等の安全性評価の研究
 燃料加工や再処理施設等の核燃料施設及び核燃料輸送容器の安全性評価に必要な臨界,遮へい,熱,構造及び事故解析についての計算コードの開発改良が進められている。臨界安全評価手法の開発では,評価コードJACSの計算精度向上のための改良が行われているほか,昭和62年に公刊された臨界安全ハンドブックのより一層の充実を目指した作業が行われている。
 遮へい安全評価コードの開発改良では,遮へい計算と線源強度評価のためコードの開発が行われている。また,遮へい計算用標準群定数ライブラリーの整備及び中性子線源強度を計算するために必要な核データの収集・整備が進められている。
 熱及び構造安全解析コードの整備では,輸送容器の安全解析のため使用を簡便にするための改良が図られている。事故解析コードの整備では再処理施設の事故事象解析に必要な基礎データの収集及び火災・爆発事象解析コードの開発が進められている。
 これらの安全性評価コードは開発が終わったものから順次公開され,核燃料施設と輸送容器の安全性評価のため広く使用されている。

2 原子力安全解析所

 原子力安全解析所においても,安全解析コードの改良整備が進められており,改良整備を行うべき安全解析コードの選定に資するため,欧米における原子力安全規制の現状・動向及び国内外における安全解析コードの開発状況性能等の調査が行われている。またこれと並行して,国内においては,国産ECCS性能評価コード,各種事故解析コード及び耐震安全解析コードについても詳細に現状調査を行ってきている。
 調査の結果を踏まえて,改良整備の対象となるコードが選定されると,先ずそのコードを導入して,テストランを行うことにより,検討が開始される。その際,解析コードの使用限界やモデルの妥当性を評価するなど,種々の性能評価のための解析を行い,併せて実験値との比較,他コードとの比較等な行って,改良整備を進めてゆく。安全審査に供される解析コードの重要性に鑑み,コードは繰り返し性能評価と改良が行われ,実用施設への適用性が十分満足できるものであることが確認されるまで,改良保守整備が続けられることになる。改良整備に当たっては,日本原子力研究所等と技術情報交換等を行い,作業の円滑化,効率化のための協力体制が敷かれている。

3 動力炉・核燃料開発事業団

 高速増殖炉の安全解析コードの開発整備については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に推進されており,熱流動関連コードとして燃料集合体熱流動解析コード及び炉容器内熱流動解析コード(AQUA),プラントシステム動特性解析コード(SSC),炉心事故関連コードとして起因過程解析コード(SAS),炉心損傷過程解析コード(SIMMER)及び格納施設内解析コード(CONTAIN)等の各種コードが体系的に整備されている。プラントの総合的な安全評価を可能とする確率論的安全評価に係るシステム解析コードを整備するとともに,評価に必要なFBR用機器信頼性データベース(CREDO)の整備・拡充が日米共同で進められている。
 また,解析コードの検証については,大洗工学センターのナトリウム伝熱流動試験施設等を用いた各種試験及び国際協力で進めている炉内安全性試験(CABRI等)から得られるデータを用いて実施されている。