昭和58年 原子力安全年報(要約)
昭和58年7月
原子力安全委員会
目次
- 国民全体の被ばく線量を推定し、評価するという観点からは、自然放射線や核爆発実験に伴う放射性降下物(以下、「フォールアウト」という。)に起因する放射線を含めてすべての環境放射線による被ばくを総合的に把握し、我が国の原子力開発利用に伴う放射線の国民被ばくに与える寄与を明らかにすることが必要である。
(自然放射線の調査)
- 放射線医学総合研究所の調査結果によれば、自然放射線による日本国民の平均被ばく線量は年間約100ミリレム程度であり、県別の地域差は年間で40ミリレム程度であると報告されている。
- これまでの内外の調査結果では、自然放射線が原因で、線量の異なる地域の集団の間に人体影響の差が認められるとの知見は得られていない。
図1 我が国の自然放射線による被ばく線量(ミリレム/年)
(フォールアウトに起因する環境放射能の調査)
- フォールアウトに起因する環境放射能の調査は、放射能対策本部の方針に基づき科学技術庁を中心とした関係省庁、国立試験研究機関、32都道府県等により実施されている。
- 核爆発実験直後のフォールアウト(対流圏フォールアウト)では半減期の比較的短い放射性核種が含まれているので、その場合の環境放射能調査では、外部被ばくとしてジルコニウム−95とその崩壊生成物であるニオブ−95、内部被ばくとして甲状腺に集中的に被ばくを与えるよう素−131を重要な放射性核種として着目する必要がある。
- 成層圏フォールアウトでは比較的長い半減期の放射性核種のみが含まれるので、定常的な環境放射能調査では、外部被ばくとしてセシウム−137、内部被ばくとしてセシウム−137、ストロンチウム−90、炭素−14を重要な放射性核種として着目する必要がある。
- 我が国に降下したフォールアウトの傾向をみると、昭和38年8月から大気圏内の大規模核爆発実験が停止されているため、昭和39年以降フォールアウトによる放射性核種の降下量は減少傾向にある。
図2 1963年から1975年までの期間にわたるSrの成層圏存在量の変化
- フォールアウトに起因する国民の被ばくについての現状分析によれば、まず、短半減期の放射性核種による外部被ばくについては、昭和37年ごろに年間数十ミリレントゲンほどの高いレベルが観測されたが、その後は短半減期の放射性核種が減衰したため、その寄与はほとんどない。また、内部被ばくについては、昭和37年9月に牛乳中のよう素−131の濃度が月平均で93pci/lにまで高まったが、その後はこれを上回る値は検出されていない。
- 長半減期の放射性核種による被ばくについては、ストロンチウム−90とセシウム−137によるものがその主なもので、年間全身線量で数ミリレム程度のオーダーと評価される。また、放射線医学総合研究所が昭和55年に行った分析測定結果によれば、ストロンチウム−90による成人の骨髄及び骨内膜細胞に対する年間線量は、数ミリレム程度と評価されている。
- 以上に述べたとおり、フォールアウトによる国民の被ばくは、現状では自然放射線に比べ、十分小さな寄与しかしておらず、今後新たに大気圏内での核爆発実験が行われない限り、将来にわたり大きな寄与を与えることはないものと思われるが、フォールアウトに起因する放射線から国民の健康と安全を護るため、今後とも国の責任においてこれを適切に監視していく必要があるものと考える。
(原子力軍艦の寄港に伴う環境放射能調査)
- 原子力軍艦の寄港に当たり、寄港地周辺の住民の健康と安全を確保することを目的として、寄港時及び非寄港時の環境放射能調査が、原子力軍艦放射能調査指針大綱に基づき、科学技術庁、海上保安庁及び水産庁並びに関係地方公共団体の緊密な連携の下に実施されている。
- これまでの調査結果では、原子力軍艦の寄港に伴い、寄港地周辺で平常時と異なる放射線測定値が検知されたのは、昭和43年における原子力潜水艦ソードフィッシュ号の寄港時以外はなかったが、今後とも原子力軍艦の寄港地の周辺住民の健康と安全を護るため、国の責任において、適切に環境放射能監視対策を実施していく必要がある。
(発電用原子炉施設における放射性物質の管理と原子力施設周辺の環境の保全)
- 発電用原子炉施設における放射性物質の管理の基本的考え方は、発電用原子炉施設における放射性物質による周辺公衆の被ばくが法令で定める許容被ばく線量(1年間につき0.5レム)以下とすることはもちろんのこと、ALARA(注)の考え方に基づき、これを十分に下回るよう管理することである。
- 発電用原子炉施設における放射性物質の管理については、一般環境への放射性物質の放出を抑制するため、燃料中に発生した放射性物質を多重の障壁により閉じ込めることと、適切な水質管理等により1次冷却水中における放射性物質の発生を極力抑制することを基本的な手段としている。また、原子炉冷却系統設備外に現われる放射性物質については、放射性廃棄物処理により適切な処理を行い、環境への放出をできる限り低く抑えることとされている。
(注)ALARAとは「As Low As Reasonably Achievable」(「合理的に達成できる限り低く」という意味)の頭文字をとったもの。
図3 放射性物質を閉じ込めるための障壁
(沸騰水型原子炉(BWR)の場合)
- 以上の考え方に基づき、所要の対策が講じられることとされていので、原子力発電所の平常運転に起因する被ばくとしては、希ガスのガンマ線による外部全身被ばく、よう素の摂取による内部甲状腺被ばく、海産生物の摂取による内部全身被ばくが重要な被ばく形態と考えられ、このため、発電用軽水型原子炉施設の安全審査における周辺公衆の被ばく評価では、これら三つの重要な被ばく形態に着目して評価を行うこととされている。
- 事故防止対策の考え方については、平常運転時において放射性物質を確実に管理することはもちろんのこと、閉じ込め機能に異常が発生しないような対策を講じるとともに、異常の拡大を防止し、仮に、異常が発生しても安全防護設備等により放射性物質の環境への異常放出を防止するといういわゆる「多重防護の考え方」に基づき、事故防止対策を講じることとされている。
- 適切な立地条件の確保の考え方については、原子炉施設は、その自然的立地条件との関連において十分安全に設置しうること及び現実には起こるとは考えられない万一の事故の発生を仮定した場合であっても周辺公衆の安全が確保しうるよう、原子炉はその安全防護設備との関連において十分に公衆から離れていることの二つの要件を満足することが必要とされている。
- 以上の考え方に基づき、実用発電用原子炉について、原子力安全委員会(以下、「安全委員会」という。)は、通商産業省の行う安全規制について必要な調査審議を行うこととされている。
- 我が国の実用発電用原子炉施設の安全確保の実績についてみると、原子力発電所における気体廃棄物の放出量は、すべて発電所において放出管理目標値を十分に下回っており、これらにより、周辺住民が受ける被ばくは、許容被ばく線量年間0.5レムを下回るのはもちろんのこと、線量目標値年間5ミリレムをも下回っている。また、固定廃棄物に起因する放射線についても、敷地境界外では許容被ばく線量に比べ無視しうる程度の低い値に抑えられている。
図4 発電用原子炉における放射性廃棄物処理システム
- これまでに我が国の原子力発電所で発生した事故・故障については、その大部分は一般環境中への放射能放出を伴わないものであり、放射能放出が伴った場合でもその量は極めて少なく、結果として周辺公衆に放射線障害を及ぼした事例は皆無である。一般環境中への放射能放出を伴った事故の事例としては、昭和56年4月に判明した日本原子力発電(株)敦賀発電所(以下、「原電敦賀発電所」という。)における放射性廃液漏洩事故があるが、この事故による環境影響については、仮に漏洩放射能が検知されたホンダワラを毎日食べるとしても、年間被ばく線量は許容被ばく線量0.5レムの約1万分の1以下であり、安全上、全く問題となるものではない。
- しかし、原子炉の安全確保に万全を期すとの観点から、事故・故障の発生を防止するため、これまでの故障等の経験を十分に生かしつつ、今後とも適切な対策を講じていく必要がある。
(再処理施設における放射性物質の管理と再処理施設周辺の環境の保全)
- 再処理施設における放射性物質の管理と安全の確保の考え方については、平常運転時における適切な放射性物質の管理対策が講じられるとともに、多重防護の考え方を適用し、臨界、火災、爆発等の諸事象に対してはもちろん、その他の事故・故障についても適切な事故防止対策を図ることとされている。また、環境放射能の放出についても、許容被ばく線量以下とすることはもちろんのこと、ALARAの考え方に基づき、これを十分に下回るよう管理することとされている。
- 再処理施設の安全確保について安全委員会は、内閣総理大臣が行う安全規制について必要な調査審議を行うとともに、安全規制に用いるべき基準、指針等の策定を行うこととされている。
- 再処理施設からの気体廃棄物及び液体廃棄物の放出量は、放出基準を十分に下回っており、これらにより周辺住民が受ける被ばくは、許容被ばく線量を下回ることはもちろんのこと、安全審査の際に評価された被ばく評価値をも下回っている。また、再処理施設内部に保管されている放射性物質に起因する放射線のレベルは、敷地境界外では、許容被ばく線量に比べ無視しうる程度の低い値に抑えられている。
- 我が国の再処理施設では、昭和52年9月から昭和58年3月末までの約6年間に70件のトラブルが発生したが、その全てのトラブルは多重防護の考え方に基づく事故防止対策が有効に機能したため、異常の発生初期の段階で検知され、それぞれ、所要の対策が講じられており、再処理施設の周辺公衆に対し、放射能による影響を及ぼすような事態に拡大することなく収束されている。
- 今後とも、これまで発生した事故・故障の教訓を踏まえて、必要な対策を講ずるとともに、その教訓が、現在計画中の民間再処理施設の設計や運転管理に適切に反映されることが必要である。
(原子力施設周辺の環境放射線モニタリング)
- 環境における放射線から公衆の個人の受ける線量が線量限度(1年間につき0.5レム)を十分下回っていることを確認することを目的として、主要原子力施設の周辺において、環境放射線モニタリングが、原子力施設の設置、運転等を行う事業者、原子力施設の設置されている地方公共団体、及び必要に応じ国の出先機関により、それぞれ異なる立場で実施されている。
表1 代表的な環境放射線モニタリング計画
- これまでの調査結果によれば、原子力発電所周辺の環境放射線(能)による周辺公衆の被ばくは、原子力発電所の運転が原因で有意に増加した事例はなく、また、周辺環境の海底土、指標生物等から有意な放射能増が検知された場合でも、その原因のほとんどは、核爆発実験による放射性降下物等原子力施設以外の要因によるものであった。
- なお、原電敦賀発電所の放射性廃液漏洩事故に際し、科学技術庁及び福井県は互いに密接な連絡を保ちつつ、迅速環境調査と詳細調査を実施したが、その環境放射線モニタリングの結果について、安全委員会は、周辺公衆への影響は今後ともないものと判断した。
- 再処理施設のモニタリングの結果については、試運転から昭和56年までにおいて、測定された放射能レベルは、平常の変動の範囲内であることが確認された。また、再処理施設周辺の放射能水準の測定値を事前バックグラウンド調査等と比較、検討した結果、再処理施設に由来すると思われる放射能の蓄積傾向は認められないことが確認された。
- 実測値をもとに、再処理施設による被ばく線量を評価すると、公衆の構成員に対する線量限度を十分に下回るのみならず、安全審査において評価された値をも十分に下回っていることが確認された。
- 通常の環境放射線モニタリングのほか、原子力防災対策の充実の一還として、緊急時の環境放射線モニタリング体制の整備が図られており、現在、安全委員会において緊急時の環境放射線モニタリングの指針について検討が行われているとともに、地方公共団体等において緊急時の環境放射線モニタリングの実施に必要な測定機器等の整備が図られている。
(放射性廃棄物の処理処分と環境の保全)
- 低レベル放射性固体廃棄物の海洋処分については、国は放射性廃棄物の海洋処分に関する内外の研究開発の成果を踏まえつつ、事前に安全性を十分に評価した上で国際的な監視の下で、試験的海洋処分に着手し、その結果を踏まえ、本格的処分を実施することとしている。
- 低レベル放射性廃棄物の試験的海洋処分計画に関し、安全委員会は、科学技術庁の行った安全評価について調査審議を行った結果、昭和54年11月、「当面実施される低レベル放射性固体廃棄物の試験的海洋処分については、環境の保全は十分に確保できるものと認められる」との結論に達している。
- 現在、この事前安全評価の結果を踏まえ、試験的海洋処分計画について関係者の理解を得るための努力を行っている。
- 昭和58年2月に開催された第7回ロンドン海洋投棄条約締約国協議会議において放射性廃棄物の海洋投棄について、科学的な研究グループを設置して検討を行うものとし、その結論が出るまで同条約締約国に海洋投棄の一時停止を呼びかけることを内容とする決議案が採択されたが、我が国としては、これら国際的動向に適切に対処するため、この科学的グループの審議に積極的に参加し、海洋投棄の安全性に対する国際的な信頼が確立されるよう努力を続けていく必要があると考える。
- 低レベル放射性廃棄物の新固化技術、低レベル放射性廃棄物の陸地処分、TRU廃棄物の処理処分、高レベル放射性廃棄物の処理処分、放射性廃棄物の敷地外における施設の貯蔵、海外再処理に伴う返還廃棄物については、安全委員会は、研究開発等の成果等を踏まえつつ、必要な安全規制体制、安全規制基準の整備を図るため、調査審議を進めることとしている。
- 原子力施設の解体等に伴って発生する放射性廃棄物の処理処分に関する安全規制のあり方については、放射性廃棄物処理処分の安全確保の一環として、商業用発電炉の廃止措置が具体化されるまでの間にとりまとめるべく、安全委員会は必要な調査審議を進めていくこととしており、この調査審議に当たっては、今後予定されている日本原子力研究所東海研究所の動力試験炉の解体の経験等を十分に参酌することとしている。
(環境に放出される放射性物質の低減化を図るための研究開発)
- 軽水炉燃料の安全性に関する研究開発については、これまで官民の関係機関において実施されており、その成果は、民間においては、具体的な軽水炉燃料の設計、製作に反映されている。また、国の関係機関においては、より客観的、かつ合理的な安全規制の実施に必要な最新の科学技術的知見の確保を図るため、必要な研究開発が進められており、その成果は、逐次、安全評価解析手法の改良や検証等に資されている。
- 一次冷却水中に現われた放射性物質の環境への放出を抑制するための研究開発については、主として民間機関において実施されている。
- 再処理施設から環境に放出される放射性物質の低減化に関する研究開発については、安全性向上と安全規制の整備充実に資することを目的に、動力炉・核燃料開発事業団や日本原子力研究所において所要の研究開発が進められている。
- 安全委員会は、今後とも、これらの研究開発の成果を安全規制体制の整備、充実、原子力施設の設計、運転等に反映するとともに、最新の知見を踏まえつつ、必要に応じ、原子力施設等安全研究年次計画を見直すための調査審議を進めることとしている。
(環境放射能に関する調査研究)
- 被ばく線量評価の基礎となる調査研究については、環境中に存在する種々の放射線源の分布と挙動を解明し、これらによる人の被ばくを合理的に推定、評価するための科学的知見を得ることを目的に、国立試験研究機関、大学等において実施されており、その成果は、安全委員会の指針で定められた計算方法やパラメータを決める際十分に反映されている。
- 環境放射線モニタリング技術の向上を図るための調査研究については、日本原子力研究所、国立試験研究機関、大学等で実施されており、その成果は、安全委員会の指針やその指針の中で引用している具体的なモニタリング技術に十分反映されている。
- 安全委員会としては、今後ともこれらの調査研究の成果を踏まえ、安全規制に使用する被ばく線量評価方法の合理化及び環境放射線モニタリングの合理化を図る等のために必要な調査審議を進めていくこととしている。
なお、付録において、読者の理解に資するため、放射線の種類、放射線被ばくの形態、放射線の人体に及ぼす影響、ICRP1977年勧告等について解説を行っている。
(原子力施設の安全審査と安全基準の整備)
- 安全委員会は、原子力施設の安全性に関する調査審議を行うに当たっては、その内部に設置されている原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査審議機能を活用し、行政庁の安全審査について最新の科学技術的知見に基づいて客観的な立場から調査審議することとし、この際、行政庁から提出されている1次審査の審査書等について総合的に審査するが、特に、(i)既に設置の許可等の行われた施設と異なる基本設計の採用、(ii)新しい基準又は実験研究データの適用、(iii)施設の設置される場所に係る固有の立地条件と施設との関連等に関する安全上の重要事項を中心に調査審議することとしている。また、これまでの原子力施設の故障等の経験について、その教訓を積極的に安全確保関連施策に反映させることが重要であるとの観点から、TMI事故、原電敦賀発電所における放射性廃液漏洩事故等過去の事故、故障等の教訓を安全委員会の調査審議に反映してきている。
- 安全委員会は、主要原子力施設の調査審議を実施する過程において、公開ヒアリング(いわゆる第2次公開ヒアリング)を開催し、当該施設の固有の安全性について地元住民等の疑問、意見等を聴取し、これを参酌してきている。
- 原子力施設の詳細設計段階以降の安全審査については、各々の原子力施設ごとに所管行政庁において行われているが、安全委員会は、所管行政庁から原子力施設の事故、故障、放射線管理状況、定期検査結果等について報告を求めることはもちろんのこと、安全確保に万全を期するため、基本設計段階における安全性に関する調査審議の過程で、個別具体的に選定した重要事項についても、その処理方針に関し所管行政庁から報告を求め、必要な調査審議を行うという立場をとってきている。
- 研究開発段階にある原子力施設の安全性については、審査対象となる原子力施設を、既に実用化の域に達している既存の原子力施設と比較対照して、両者の技術的相違点を明確化し、次にその相違点が安全確保上持つ意味を客観的かつ、科学技術的観点から的確に把握した後、審査対象となる原子力施設固有の問題に対し、実際の科学技術的データから裏付けられた適切な工学的対策が講じられることとなっているかどうかをチェックするという方法により、必要な調査審議を行うこととしている。
- 安全委員会は、今後とも調査審議機能の充実を図ること等により、原子力施設の安全審査に万全を期していくこととしているが、事業者や所管行政庁においても、それぞれの立場において原子力施設の安全確保を図るため、一層の努力を傾注する必要があると考える。
- 安全委員会は、所管行政庁間の安全規制の斉一化を図るとともに、安全審査の客観性、合理性を図ることを目的に、各種指針類の整備を図ってきており、現在も原子炉安全基準専門部会及び核燃料安全基準専門部会の場で、安全研究の成果など最新の科学的知見に基づき、幅広い観点から、原子炉立地審査指針などの既存指針類の見直し及び新指針類の策定のための調査審議を進めている。
(安全研究等の推進とその成果の安全確保対策への反映)
- 原子力施設等に関する安全研究の成果は、安全確保対策に反映されてきているのをはじめ、安全解析コードの整備、改良や安全審査、指針類の整備の基礎資料として積極的にその活用が図られてきている。
- 安全研究とは別に安全性、信頼性の実証という観点から、原子力発電施設等の安全実証試験が実施されているが、安全委員会は、実証試験の成果についても、十分に注目して、必要に応じ、これを積極的に安全規制政策に反映してきたところである。
- 環境放射能に関する安全研究についても、その成果は安全確保対策に反映されてきているのをはじめ、放射線障害防止政策の基礎となる科学的データを提供し、我が国のみならず「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」等の調査審議に適切に反映されてきている。
- 以上の安全研究と並行して、安全委員会は、原子力の一層の安全確保を図るため、原子力施設等の安全基準、TMI事故に関連する安全確保問題等に関し、総合的な調査の推進を図ってきている。
(原子力施設の事故、故障等の教訓の反映)
- 内外で発生した事故、故障等のうち、安全確保上重要と考えられるものについては、特にその原因の詳細な分析を行い、その教訓を広く安全確保対策に反映させることは極めて重要である。
- このような観点から、安全委員会は、米国で発生したTMI事故を重視し、「TMI事故の教訓を我が国の原子力安全確保対策に反映させるべき事項」(52項目)について、反映の具体化等のための調査審議を行い、その結果を、原子力施設の安全審査、安全審査に使用する指針類の整備、安全研究の充実強化、防災対策の整備充実など安全確保関連施策全般に反映してきたところである。今後とも、TMI2号炉の復旧過程等に伴って得られる新たな知見については、これを我が国の原子力の安全確保の一層の向上のために十分反映していくために、安全確保総合調査の一環として、TMI2号炉の復旧に関する情報収集を行っている。
- 原電敦賀発電所における放射性廃液漏洩事故についても、この教訓を敦賀発電所の安全確保対策の強化に反映させることはもとより、広く我が国の原子力の安全確保対策に反映させるため、必要な調査審議を進めてきた。この事故の教訓として、今後関係者が留意すべき事項は、まず第一に、敦賀発電所の事故は基本的には事業者の不適切な運転及び管理に起因するものであり、原子力開発利用にたずさわる全ての事業者及び従業員は、安全確保に関する第一義的責任者たる自覚をもって、今後とも従業員に対する教育、訓練の徹底を図るなど保安管理体制の充実、強化を図っていく必要がある。第二は、所管行政庁の監督責任の重要性に関するものであり、通商産業省においては、安全委員会の意見を踏まえて、技術基準の整備充実、法令に基づく事故、故障の報告対象範囲の明確化など6項目にわたり、安全規制行政の強化対策が図られたところであるが、今後とも、所管行政庁は、原子力施設全体に対し十分な事故防止対策が図られるよう関係法令に基づき、事業者に対し万全の監視体制を敷くことはもとより、法令上の報告対象とならないトラブルを含む事故、故障情報を的確に把握し、これを積極的に安全確保対策の改善に取り入れるよう事業者を適切に指導していくことが重要である。第三は、安全委員会の調査審議機能の充実、強化の必要性に関するものであり、安全委員会は、この事故の教訓を踏まえて、環境への放射性物質の漏洩防止についてより一層の万全を期すため、主要な液体状放射性廃棄物処理施設に係る安全審査指針の充実を図ったところであるが、最近の事故、故障等が品質保証、運転管理等の分野において発生していることにかんがみ、安全委員会は今後は、原子炉の設置許可等以降の段階における事故防止対策にも一層の関心を払う必要があるものと考えている。
(従事者の被ばく管理に関する安全確保関連施策の現状)
- 従事者の被ばく管理に当たっては、従事者の受ける被ばく線量が、法令で定める基準(3ヶ月につき3レム等)を超えることのないようにすることはもちろん、ALARAの考え方に基づき、これを下回るようにすることを基本方針として行うことが必要である。
- この基本方針に基づき、各事業者は、原子力活動の態様に応じて場所及び人の管理に関し、従事者の被ばく管理対策を実施しているが、安全委員会としても原子力施設の基本設計の審査に当たっては、従事者の被ばく管理の立場から個別案件ごとにチェックしてきている。
- また、近年の原子力開発利用の進展に伴い、複数の事業所で作業を行う労働者の数が増大していることにかんがみ、従事者の年間被ばく線量等を集中的に登録管理する制度が発足し、これに基づき原子力発電所等主要原子力施設の従事者については、一元的な被ばく線量の把握が行われている。
- 今後とも従事者の被ばくの一層の低減化を図るために、研究開発等の成果を実際の対策に適切に反映させるとともに、事業者自らが、日常の放射線管理業務において、従事者の被ばく低減化のための地道な努力を積み重ねていくことが肝要である。
(国民との意思の疎通に関連する施策の現状)
- 原子力の安全性について国民の理解と信頼を得るためには、厳正な安全規制を実施し、安全性を確保すると同時に、国民と十分な意思の疎通を図ることが必要不可欠である。
- このため、安全委員会は、原子炉の設置に際して通商産業省の行う安全審査についていわゆるダブルチェックを行うに当たり、原子炉施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し、これを参酌することを目的として、いわゆる第2次公開ヒアリングを地元の協力を得つつ、対話方式を取り入れた形で実施してきた。
- この第2次公開ヒアリングの運営については、当初から地元住民の意見等が的確に聴取できるよう配慮することを基本方針とし、時間の割り振り、対話方式のやり方等について、回を重ねるごとにより広い住民の声を聞くための改善策を講じてきたところであり、第2次公開ヒアリングの目的は概ね達成されてきたものと考えている。
- しかし、原子炉施設所在の市町村の首長等からなる団体からいわゆる反対派の人々による騒動の場が地元に持ち込まれないよう、第2次公開ヒアリングの運営方法を抜本的に改善してほしい旨の要望があり、安全委員会で改善策を検討した結果、今後とも、地元における対話方式を柱とする第2次公開ヒアリングを実施することをあくまで基本とするが、個々の場合においては地元の実情に応じ、これに代わる適切な意見聴取の方法があればその方法によることもできるものとし、具体的には、地元住民からの文書による意見聴取を加味した方式を導入することとした。
- 安全委員会は、この方式により、「東京電力(株)柏崎・刈羽原子力発電所の原子炉の設置変更(2号及び5号原子炉の増設)に関する地元意見を聴く会」を開催したが、これと並行して、中国電力(株)島根原子力発電所の原子炉の設置変更(2号原子炉の増設)に係る公開ヒアリングに向けて所要の準備を開始し、いわゆる反対派の人々も含めてより広汎な地元の安全性に関する意見聴取ができることをめざして、島根県と接衝を行った結果、いわゆる反対派の人々もこの公開ヒアリングに参加することで合意が成立した。
- 今後とも、安全委員会は第2次公開ヒアリング等の運営方法について検討を加え、地元住民等の意見を聴取し、これを参酌するという方針を堅持していくこととしている。
表2 公開ヒアリング開催実績一覧表
(その他の重要施設の進展)
- 放射性廃棄物の処理処分の安全確保については、安全委員会は、今後の原子力開発利用にとって最も重要なものの一つであるという認識の下に、今後とも関係機関と密接な連絡をとりつつ、安全確保関連施策を積極的に推進していきたいと考えている。
- 原子炉廃止措置と安全の確保については、安全委員会は、JPDRの解体着手に当たり、将来の商業用発電所の廃止措置に備えて、解体中の原子炉施設の維持管理、放射性廃棄物の処理、被ばく低減等原子炉施設の解体に当たり考慮すべき事項ないし基本的考え方の明確化を図ることとしている。
- 原子力発電所等周辺の防災対策の整備については、TMI事故を契機に、積極的に防災体制の整備充実を図ってきたところであり、安全委員会に緊急技術助言組織等を設置するとともに、原子力防災対策の整備充実に資するための調査審議を行っている。
- 環境放射能調査については、その推進の考え方及び現状は第1編で叙述したとおりであるが、環境放射能調査の計画と結果の評価及び環境放射線モニタリングに関する指針の見直しに関する調査審議を進めているところである。
- 放射性物質の輸送に関する安全規制については、安全委員会は、放射性物質の輸送の安全基準に関する国際的動向をも十分に踏まえつつ、放射性物質の安全輸送の基準の見直し作業を進めると同時に、核燃料物質の陸上輸送の実態調査及び事故確率調査に基づく安全評価に関する事項について調査審議を進めているところである。
- 国際協力については、放射性物質の国際輸送や放射性廃棄物の海洋処分などの分野における国際責務の履行及び我が国の原子力安全確保対策の整備への反映という二つの目的を十分に踏まえつつ、安全確保に関する国際協力の推進を図っている。
- ICRPが1977年に新しい基本勧告を発表したことを受けて、我が国においても、放射線審議会等の場で、この新勧告のとり入れに関する調査審議を行っているところである。
- 放射性同位元素等の利用に関する安全規制体制の整備については、放射性同位元素等の安全規制に関する事項のうち、当面早急に実施すべき事項に関し必要な調査審議を行い、この調査審議の結果に沿って、放射性同位元素装備機器の設計承認及び機構確認制度の創設、指定代行機関による施設検査業務の代行制度の創設等の改正を行った。
(事故、故障の実態)
- 昭和56年度及び昭和57年度に発生した事故、故障であって、関係法令に基づき事業者から所管行政庁に報告のあった事故、故障は、それぞれ実用発電用原子炉については36件、26件、試験研究用及び研究開発段階にある原子力施設については9件、10件、核燃料施設については1件、4件、放射性同位元素等取扱施設については1件、2件、であった。昭和56年度に発生した事故、故障のうち特に問題となる事故としては昭和56年10月から11月にかけて発生した日本原子力発電(株)東海発電所における作業員の許容被ばく線量超過事故があるが、被ばく者に対する医師の診断結果では、特記すべき異常所見なしと判断された。一方、原子力発電所以外の施設で発生したもののうち、人の被ばくの観点から特に問題となる事故としては、昭和56年5月に国立がんセンターで発生した被ばく事故があるが、関係者全員の健康診断を行ったところ、特段の異常は認められなかった。昭和58年2月には動力炉・核燃料開発事業団人形峠事業所ウラン濃縮パイロットプラントで化学分析作業中にビーカーの破裂事故が起こり、環境及び作業員への被ばくの影響はなかったものの、従業員1名が出血多量で死亡したが、これは、一般的化学分析作業における安全管理への配慮が十分でなかったためとみられる。今後とも原子力開発利用に携わる事業者は、これらの事故を自らのものとして受けとめ、かかる事故の再発を防止するため、真に実効性のある保安管理体制を確立し、放射線管理の徹底を図るべきものと考える。
(放射性廃棄物の管理と周辺環境の保全)
- 放射性廃棄物の管理については、各原子力施設ごとに適切な対策が実施されてきた結果、各原子力施設の運転に起因する周辺環境の放射線(能)レベルは、自然放射線の変動巾程度に低く保たれており、原子力発電所の周辺住民が、廃棄物の放出により受ける被ばくは全身被ばく線量で線量目標値年間5ミリレム以下に収まっているものと判断される。一方、環境に放出される放射性廃棄物以外の放射性廃棄物は、いずれも、各事業所において安全に保管管理されている。
(従事者の被ばく管理)
- 昭和56年度の従事者の被ばく状況は、前年度とほぼ横ばい状況にあり、今後は技術開発等に伴い従事者の総被ばく線量は低減することが期待される。
- 安全委員会としては、原子力開発利用の進展に適切に対処するため、今後とも国及び民間が一体となって、従事者被ばくの低減化を図るための対策を推進することを期待するとともに、その成果を積極的に我が国の安全確保対策にとり入れるよう努力していくこととしている。