は し が き

 本年4月,ソ連ウクライナ共和国のチェルノブイル原子力発電所4号機で事故が発生し,大量の放射性物質が周辺環境に放出されるという事態を招き,原子力の安全確保の重要性を改めて認識させました。事故の概要については,8月末から9月初めにかけてIAEAで行われた諸会合において,その内容がかなり明らかになりました。原子力安全委員会としては,事故の重大性を認識し,その原因等について調査審議するため,ソ連原子力発電所事故調査特別委員会を設置し,9月には第1次報告書をとりまとめましたが,引き続き詳細な検討を進め,我が国の原子力安全確保に反映させるべき事項について検討を行い,一層の安全確保に努めてゆく考えであります。また,今回の事故の大きな教訓の一つは,放射性物質が国境を越えて拡散し,遠く8000q以上も離れた我が国においても検出されたため,原子力の安全確保はまさに単に一国の問題にとどまらず各国共通の問題としてとらえていかなければならないことを改めて認識させたことであります。
 本年報では,第1編において上記ソ連原子力発電所事故を取り上げ,事故の概要,事故による放射能の影響及び事故をめぐって行われたIAEAの活動をはじめとするさまざまな国際的な対応について記述しております。また,第2編においては原子力発電所や核燃料施設などの原子力施設に関する安全確保施策の現状を紹介しておりますが,本年は原子炉等規制法の改正,ICRP新勧告への対応について,特別に1章を設けて記述しております。

 原子力開発利用を進めるに当たっては,安全の確保を図ることが大前提であることはいうまでもありません。このため,我が国においては,従来から厳格な安全審査の実施,安全審査に用いる指針類等の整備・充実,地元住民の方々の意見を聴くための公開ヒアリングの開催,安全研究の推進,事故・故障の教訓の安全対策への反映など安全確保のための各種施策を実施してきたところであります。この安全確保の姿勢は,我が国における原子力開発利用が本格的に開始されてから約30年を経て,原子力発電が総発電量の約25%を供給するなど定着期に入った現在も変わることなく貫かれております。
 原子力安全委員会は,今後とも原子力の安全確保に万全を期し,所要の施策の推進に全力をあげて取り組んでゆく所存でありますが,本年報が原子力の安全確保に関する国民各位の理解を深める上で一助となることができれば幸いであります。

 昭和61年12月

原子力安全委員会委員長

御園生 圭 輔



目 次

第1編 ソ連原子力発電所事故

まえがき

 第1章 ソ連原子力発電所事故の概要
  第1節 チェルノブイル原子力発電所4号機の概要
   1 ソ連の原子力発電とRBMK型炉の位置づけ
   2 4号機の仕組み
   3 4号機の特徴
  第2節 事故の経過
   1 事故の発生状況
   2 事故後の措置
  第3節 事故の原因

 第2章 ソ連原子力発電所事故による放射能の影響
  第1節 放射性物質の放出及びソ連国内における放射能の影響
   1 放射性物質の環境への放出
   2 放射能による環境の汚染
   3 住民の避難及び健康への影響
   4 原子力発電所従事者,消防士筆の被曝
  第2節 ヨーロッパ諸国を中心とする放射能の影響
   1 放射能による環境の汚染
   2 放射能対策
   3 被曝線量
  第3節 我が国への放射能の影響
   1 我が国の対応
   2 我が国への放射能の影響

 第3章 国際的な対応
  第1節 事故をめぐる国際的な動き
  第2節 原子力事故に関する2条約の成立
   1 条約策定の背景
   2 条約の概要
  第3節 今回の事故の評価のための国際協力
   1 IAEA
   2 OECD/NEA等
  第4節 今後の国際協力

第2編 原子力の安全確保関連施策の現状

 第1章 原子炉等規制法の改正等
  第1節 原子炉等規制法の改正
   1 放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制の創設
   2 原子力施設の検査体制等の充実・強化
  第2節 ICRP新勧告への対応
   1 ICRPの勧告
   2 放射線審議会での検討経過
   3 意見具申の概要
   4 今後の対応

 第2章 原子力施設等の安全規制及び安全確保
  第1節 実用発電用原子炉施設
   1 安全規制の概要
   2 許認可,検査等
   3 公開ヒアリング等の開催
   4 指針等の整備
   5 運転管理
   6 放射線被暴管理
   7 放射性廃棄物管理
  第2節 試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設
   1 安全規制の概要
   2 許認可,検査等
   3 運転管理
   4 指針等の整備
   5 放射線被曝管理
   6 放射性廃棄物管理
   7 原子炉の解体
  第3節 核燃料施設
   1 安全規制の概要
   2 許認可,検査等
   3 指針等の整備
   4 運転管理等
   5 放射線被曝管理
   6 放射性廃棄物管理
  第4節 核燃料物質の輸送
   1 安全規制の概要
   2 輸送の現状
   3 設計承認及び容器登録
   4 輸送の安全基準等の整備
  第5節 放射性同位元素等取扱い施設
   1 放射性同位元素等の取扱いに係る安全規制
   2 安全管理対策の実施等

 第3章 放射性廃棄物の処理処分
  第1節 放射性廃棄物に関する規制
   1 原子炉等規制法による規制
   2 障害防止法による規制
  第2節 現状
   1 高レベル放射性廃棄物
   2 低レベル放射性廃棄物

 第4章 環境放射能調査
  第1節 概要
  第2節 自然放射線に関する調査
  第3節 放射性降下物等の放射能調査
  第4節 原子力施設周辺の放射能調査
  第5節 原子力軍艦寄港に伴う寄港地沿岸及び周辺の放射能調査

 第5章 原子力発電所等周辺の防災対策
  第1節 概要
  第2節 防災対策の現状
   1 我が国の防災対策
   2 緊急技術助言組織の設置
   3 中央防災会議の決定
   4 原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会等の活動
  第3節 関係行政庁等の対応

 第6章 原子力の安全研究等
  第1節 概要
  第2節 原子力施設等に関する安全研究
  第3節 原子力発電施設等の安全性実証試験
  第4節 環境放射能に関する安全研究
  第5節 放射性廃棄物処分に関する安全研究
   1 低レベル放射性廃棄物処分の安全研究
   2 高レベル放射性廃棄物等の処分の安全研究
  第6節 放射性廃棄物処分に関する安全性実証試験
  第7節 安全確保総合調査
   1 概要
   2 主要な委託調査の現状

 第7章 国際協力
  第1節 多国間協力等
   1 IAEA
   2 OECD/NEA
   3 国際海事機関(IMO)
   4 その他
  第2節 2国間協力
   1 規制情報交換等
   2 安全研究協力

 第8章 安全確保のための基盤整備
  第1節 技術者・研究者等の養成等
   1 概要
   2 日本原子力研究所における研修
   3 放射線医学総合研究所における研修
   4 民間における教育,訓練等
   5 国家試験
  第2節 安全解析コードの開発等
   1 日本原子力研究所
   2 原子力安全解析所
  第3節 その他
   1 第3次改良標準化計画
   2 品質保証活動

資 料 編

1−1原子力安全委員会の組織
1−2原子力安全委員会の当面の施策について
1−3原子力安全委員会の行う原子力施設に係る安全審査等について
1−4公開ヒアリング等の実施方法について
1−5原子力安全委員会委員長談話
1−6「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の一部改正について
1−7原子力施設等安全研究年次計画
高速増殖炉の安全性に関する研究(昭和62年度〜昭和65年度(抜粋)
2−1(1)我が国の原子力発電所の運転・建設状況(電気事業用)

(2)

原子力発電所の分布地図
2−2(1)昭和60年度の原子力発電所における事故・故障等の概要

(2)

原子力発電所の事故・故障等の報告件数一覧(電気事業用)
2−3(1)昭和60年度実用発電用原子炉施設における放射性廃棄物管理の状況及び従事者の被ばく状況について I

(2)

I 付録

(3)

昭和60年度実用発電用原子炉施設における放射性廃棄物管理の状況及び従事者の被ばく状況について II

(4)

II 付録
2−4試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設一覧表
2−5昭和60年度の試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設における事故・故障の概要
2−6試験研究用及び研究開発段階にある原子炉施設における従事者の被ばく状況について(昭和60年度)
2−7核燃料加工施設一覧
2−8主要核燃料使用施設等一覧
2−9昭和60年度の核燃料施設における事故・故障について
2−10核燃料施設における従事者の被ばく状況について(昭和60年度)
2−11再処理施設における放射性廃棄物管理状況について(昭和60年度)
2−12放射線障害防止法の施行状況
2−13放射性同位元素等取扱事業所における事故等
3−1原子力施設等の安全審査に関する原子力安全委員会の実績一覧
3−2公開ヒアリング開催実績一覧
3−3原子力安全に係る昭和61年度原子力開発利用基本計画
3−4原子力安全委員会の用いる安全審査指針類リスト一覧
3−5原子炉安全専門審査会内規リスト一覧
3−6昭和60年4月以降における我が国の原子力安全に関する主なできごと(昭和60年4月〜昭和61年9月)
4−1ソ連チェルノブイル原子力発電所の事故について(4月30日 原子力安全委員会委員長談話)
4−2ソ連原子力発電所事故調査特別委員会の設置について(5月13日原子力安全委員会)
4−3ソ連チェルノブイル原子力発電所の事故に関する国会決議
4−4我が国における放射能調査関係資料

(1)

放射能調査実施機関一覧

(2)

放射能調査体制の推移

(3)

平常時の放射能調査体制

(4)

3空域における高空浮遊じん核種分析(ヨウ素131)

(5)

5管区気象台における高空浮遊じん全ベータ放射能調査

(6)

大気浮遊じん中のヨウ素131の経時変化

(7)

大気浮遊じん中のセシウム137の経時変化

(8)

雨水中のヨウ素131の経時変化

(9)

原乳中のヨウ素131の経時変化

(10)

野菜中のヨウ素131の経時変化

(11)

離島の天水等の放射能調査結果(ヨウ素131)

(12)

放射能対策本部拡大代表幹事会の申し合わせ(4月30日)

(13)

ソ連チェルノブイル原子力発電所事故に伴う我が国の放射能対策について(5月4日放射能対策本部)

(14)

ソ連原発事故に係る国内放射能調査について(5月22日放射能対策本部代表幹事会)

(15)

ソ連チェルノブイル原子力発電所事故に起因する放射能の我が国への影響について(6月6日放射能対策本部)

(16)

ヨウ素131の最高検出値

(17)

放射性降下物の核種分析結果
4−5チェルノブイリ原子力事故の諸影響に関する声明(仮訳)(5月5日 東京サミット)
4−6IAEA総会特別会期最終文書(仮訳)