1−10 高レベル放射性廃棄物等安全研究年次計画(昭和61年度〜昭和65年度)(抜粋)
昭和60年8月5日
原子力安全委員会
放射性廃棄物安全規制専門部会

II 年次計画策定の基本方針

1 安全確保の考え方

 高レベル放射性廃棄物の処分に係る安全確保の考え方について,現在の知見に基づき整理すると以下の通りである。

@ 使用済燃料の再処理により分離された高レベル放射性廃棄物は,その放射性物質成分が主として核分裂生成物及び超ウラン元素から構成され,なかでも長半減期の核種が相当多く,かつ放射性物質濃度も極めて高い。このため,原子力発電所等から発生する低レベル放射性廃棄物と異なり,その放射能量の減衰が遅く,また,ある期間自己発熱があることに留意する必要がある。

A 高レベル放射性廃棄物の地層処分の目標は,相当の長期間は人工バリアによって,その後は主として天然バリアの効果によって,高レベル放射性廃棄物に含有される放射性物質を,人間及び生物環境(以下「生物圏」という。)への影響のおそれが十分軽減されるまで生物圏から隔離し,閉じ込めることである。処分方法としては,現在,高レベル放射性廃棄物を地層処分に適合するように安定な形態に固化処理して容器(キャニスター)に充填し,必要な場合その外側にオーバーパックを設けたものを,岩体中に掘削した空間(処分場)に埋設した後,閉鎖する方式が考えられている。

B その地層処分に関する安全評価の考え方は現時点では下記のようにまとめられる。

i) 処分場閉鎖前においては,再処理施設等に対する安全評価の考え方が基本的には適用できると考えられるが,地下空間を利用することによる,地上の施設とは異なる安全確保上の配慮を必要とする面もあると考えられる。

ii) 処分場閉鎖後の期間に対する安全評価においては,人工バリアによる長期間の閉じ込め後,時間の経過に従って,主に各種の自然現象に起因して放射性物質が処分場から周囲の地質環境へ移行する可能性をシナリオとして想定する。すなわち,固化体,容器,オーバーパック,充填材等からなる人工バリアと周囲の岩体等の地質環境からなる天然バリアとから構成される多重バリアシステムが放射性物質の移行を阻止,抑制する効果を評価するとともに,最終的に放射性物質が多重バリアシステムから生物圏へ移行する可能性及びその影響を評価する。

2 策定の基木的考え方

(1) 基本事項

@ 高レベル放射性廃棄物の地層処分は,「4段階方式」により進められることとなっているが,その安全評価については,実固化体処分を行う第4段階や処分場閉鎖直前の他,これに至る各段階の適切な時期においても,その時点における最新の知見に基づいて行う必要がある。従って,今後の開発研究の進展を見極めつつ,各段階において安全性の判断上どのようなことを行うべきかについて検討するとともに,これに必要となる研究課題について体系的に整理して置くことが極めて重要である。

A 現在は開発の第2段階(処分予定地の選定)の初期に当たるため,今後の開発の進展如何によっては安全研究の方向も一層明確になると思われるが,当面第2段階の終了時点までにその成果が必要となる安全研究に重点を置くとともに,これに加え,第3段階以降にその成果が必要となる安全研究についても長期的な観点から検討し,現時点で行っておくべき研究課題を摘出しておくことが重要である。

B 高レベル放射性廃棄物の処分は,放射性廃棄物を安全に隔離し閉じ込める必要のある時間の長さが極めて長期間であるという点において従来にない特徴を有するため,このような場合のリスクの概念,評価手法及び評価基準等,安全評価の考え方の基本となる部分についての検討を行うことが重要となる。この点についても,今後の開発研究の進展を見極めつつ,より具体的に検討していく必要があるが,現段階では,諸外国及び国際機関での検討状況も踏まえつつ,これらの検討に必要な知見等を調査・研究しておくことが重要である。

(2) 対象範囲

@ 高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物(以下「高レベル放射性廃棄物等」という。)の処分に係る安全評価及び指針・基準に関する研究を対象とし,当面は,特に高レベル放射性廃棄物のガラス固化体の地層処分に係るものに重点を置いた。
 なお,高レベル放射性廃棄物等の処理処分は,一般に固化処理,貯蔵,処分及び輸送の過程に分けて考えられるが,このうち,固化処理,貯蔵及び輸送に係る安全研究については,原子力施設等安全研究年次計画の中で固化処理施設,貯蔵施設又は輸送容器の安全研究の検討の一環として検針されるところから,本安全研究年次計画からは除外した。

A 高レベル放射性廃棄物等の処分に係る環境放射能に関する安全研究のうち,生物圏における放射性物質の挙動に係る研究,人体に対する影響評価に係る研究等既存の研究と共通するものについては,環境放射能安全研究年次計画の中で検討されるところから,本安全研究年次計画からは除外した。

B 具体的な安全研究課題については,国として実施すべき課題に限定して取り上げることとした。なお,動力炉・核燃料開発事業団が中核的役割を担い進めている高レベル放射性廃棄物の処分の推進に係る研究開発の一環として行われる安全性に関する研究についても,その成果が安全規制に必要な安全評価及び指針・基準の整備にも資するものであるため,本安全研究年次計画において併せて取り上げた。

3 年次計画推進に当たっての留意事項

@ 高レベル放射性廃棄物の地層処分の長期間に亘る安全確保は,安全評価上は天然バリアに依存する割合が大きく,諸外国では既に原位置試験等を実施し,安全評価に必要となる各種データの蓄積を行っている所もある。安全研究を効率的かつ有機的に進めるために,これら諸外国との情報交換,人的交流等による国際交流を積極的に図ることが望ましい。なお,我が国としても,地層,水文等に関するわが国固有の評価パラメータを得るため,深層試験場等によるわが国の地層を対象とした研究を進める必要がある。

A 安全研究の個々の課題の実施に当たっては,関係する各機関が,その特性及び専門領域を活かして具体的な課題を分担し,相互に密接な協力のもとに推進していくものとするが,高レベル放射性廃棄物の処分が環境に与える影響の評価に当たっては,広範囲の学際的知識を必要としており,また,その安全研究自体に時間がかかり,地道な努力を着実に進めて行く必要がある。このため安全研究に携わる人材を広く糾合して行くことが特に求められており,その意味で国内においては,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を軸に,地質調査所,放射線医学総合研究所等の国立試験研究機関との連携に努め,併せて(財)電力中央研究所等民間の調査研究機関や大学,学会等の学術的機関の協力を得て,有機的に研究を進めていく体制を整備することが必要である。