原子力安全年報
─平成2年─
原子力安全委員会
はしがき
原子力の開発利用に当たっては,安全の確保が大前提であります。このため,原子力安全委員会は,厳格な安全審査の実施,安全審査に用いる指針類の整備及び充実,地元の意見を参酌するための公開ヒアリングの開催,故障・トラブル等の調査とその結果得られる教訓を安全対策へ反映する等,安全確保のための基盤となる重要な各種施策を推進してきております。
これらの施策と所管行政庁及び事業者の安全確保のための努力の結果,我が国の原子力施設の安全は国際的にも高い水準と信頼性が維持されているものと考えられます。
我が国のみならず原子力施設では,一般の産業施設に比べより高度の技術に基づく安全確保対策が講じられております。すなわち,通常運転中の従業者,一般公衆に対する放射線影響は単に法令による基準を守るだけでなく合理的に達成可能な限り低くするという方針が採られております。また,原子力施設に対しては現実には起こるとは考えられないような異常事象の発生等厳しい条件を仮定しても,なお,安全が確保されるように,多重防護,多重障壁等による保守性の高い安全設計がなされております。これは言うまでもなく,原子力の開発利用は一面で放射線の有害な影響をもたらすという問題があるため,その潜在的な危険性を顕在化させないために,厳重な安全対策を尽くすことが,原子力の開発利用の前提であるという認識が,開発当初から関係者の間に浸透してきたからであります。
本年の原子力安全年報は,まず第1編で原子力安全委員会の過去1年間の活動と,原子炉施設あるいは核燃料施設等,原子力施設全般に関する安全確保関連施策の現状を紹介してあります。
また,第2編では安全確保対策の基本になっている原子力の安全の考え方について解説を試みております。安全確保の基本は潜在的危険性を顕在化させないことですが,近年,原子力施設の持つ潜在的危険性をリスクという概念でとらえ,それを定量的に評価する方法が国際的に広く検討されております。現在,我が国の安全審査,安全規制で行われる安全評価は,主として決定論的安全評価に準拠して実施されておりますが,それを補足する目的で,一部には確率論的安全評価(PSA)が用いられております。このPSAは原子力施設の安全レベルを相対的に評価する手法の一つとして極めて有効なものであると国際的に認められております。特に米国スリーマイルアイランド原子力発電所事故以降,PSAの綿密な研究をさらに進め,その広い適用性を検討することが大切であることが,国際的にも強調されて来ており,我が国でも研究所・産業界等で盛んに研究が進められております。このような動きも踏まえて,第2編を叙述しております。
第2編第1章においては,原子力発電所を例として,現行の決定論的安全評価による安全確保についての基本的考え方,また,その考え方に基づき事故経験を踏まえて具体的に講じられた措置について述べ,さらに,確率論的安全評価(PSA)と,国内外での安全規制等におけるPSAの取扱いの現状について解説しております。
第2章では,放射性廃棄物に対する安全確保対策の方針と現状を述べ,併せて放射性廃棄物の処理処分に関するリスクの考え方を紹介しています。
第3章では,原子力利用に伴う放射線の影響の防護について述べております。我が国の放射線防護の基準等は国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告等に準拠して定められておりますので,その基本方針が述べられています。放射線の影響のリスクに関する考え方がICRP等で活発に検討されておりますが,これはまた原子力施設あるいは放射線利用施設に係わる潜在的危険性に対するリスク問題の検討にも大きく影響することでありますので,放射線影響のリスクについて解説してあります。
なお各方面から最近寄せられております疑問・質問などについて,8問を選び説明を試みました。
原子力安全委員会は,今後とも,原子力の安全性の一層の向上を図るため,安全確保に肝要な施策の推進に万全を期していく所存でありますが,本年報が原子力の安全確保に関する国民各位の理解を深める上で,一助となることが出来れば幸であります。
平成2年12月
目 次
第1編 原子力の安全確保関連施策の現状
第1章 原子力安全委員会の活動
1 原子力安全委員会による安全審査
2 指針類の改訂等
3 公開ヒアリングの実施等
4 安全研究の推進
第2章 原子力施設等の安全規制及び安全確保
第1節 実用発電用原子炉施設
1 安全規制の概要
2 許認可,検査等
3 指針等の整備
4 運転管理
5 放射線被ばく管理
6 放射性廃棄物管理
7 原子炉の解体
1 安全規制の概要
2 許認可,検査等
3 指針等の整備
4 運転管理
5 放射線被ばく管理
6 放射性廃棄物管理
1 安全規制の概要
2 処理処分の現状
1 安全規制の概要
2 輸送の現状
3 設計及び容器の承認
4 輸送の安全基準等の整備
1 放射性同位元素等の取扱に係る安全規制
2 線量基準等の整備
3 安全管理対策の実施等
第3章 環境放射能調査
第4章 原子力発電所等周辺の防災対策
1 我が国の防災対策
2 緊急技術助言組織の設置
3 中央防災会議の決定
4 原子力安全委員会原子力発電所等周辺防災対策専門部会等の活動
5 関係行政庁等の対応
第5章 原子力の安全研究等
1 低レベル放射性廃棄物処分の安全研究
2 高レベル放射性廃棄物処分の安全研究
1 概要
2 主要な委託調査の現状
第6章 国際協力
1 IAEA(国際原子力機関)
2 OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)
3 放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)
4 国際海事機関(IMO)
5 その他
1 規制情報交換等
2 安全研究協力
第7章 安全確保のための基盤整備
第1節 技術者・研究者等の養成等
1 日本原子力研究所
2 原子力安全解析所
3 動力炉・核燃料開発事業団
第2編 原子力における安全の考え方
第1章 原子力施設における安全確保対策
1 周辺公衆に対する放射線防護の考え方
2 多重防護の考え方
3 適切な離隔条件等の確保の考え方
第2節 原子力発電所における事故経験の反映
1 シビアアクシデントに関する研究の動向
2 確率論的安全評価(PSA)
1 国際機関及び各国の状況
2 我が国の状況
第2章 放射性廃棄物の処理・処分における安全確保対策
1 放射性廃棄物の概要
2 放射性廃棄物の処理及び管理
3 放射性廃棄物の最終処分
1 低レベル放射性廃棄物の処分に係る安全確保の現状
2 ICRP等における放射性固体廃棄物の処分についてのリスク限度の考え方
3 今後の放射性廃棄物の処分に係る安全確保方策
第3章 放射線の影響の評価と防護の考え方
1 放射線被ばくの影響
2 放射線のリスク
1 ICRPの放射線防護に関する基本原則(3原則)
2 線量当量限度の根拠
3 我が国における対応および現状
資 料 編