第4節 核燃料物質の輸送
1 安全規制の概要
核燃料物質の輸送の安全規制は,陸上輸送については原子炉等規制法に基づき科学技術庁,運輸省及び都道府県公安委員会により,海上輸送については船舶安全法に基づき運輸省及び海上保安庁により,また,航空輸送については航空法に基づき運輸省により,それぞれ実施されている。
(1) 陸上輸送の安全規制
科学技術庁は,核燃料輸送物(核燃料物質等を輸送容器に収納し,輸送する状態としたもの。)に関する安全基準を,原子炉等規制法に基づく総理府令「核燃料物質等の工場又は事業所の外における運搬に関する規則」等に定めている。核燃料輸送物が規則で定める場合に該当するときは,輸送のつど,核燃料輸送物が安全基準に適合するものであることの確認が行われる。この安全基準は,核燃料輸送物が輸送中に通常受ける振動,衝撃等に耐えることはもちろんのこと,荷役作業中の誤操作,運送中の交通事故等の事故時においても,安全性を損わないようにとの観点から国際原子力機関(IAEA)が定めた規則に基づいている。
核燃料輸送物の確認に当たっては,まず,核燃料輸送物の設計が安全基準に合致するものであることについて,科学技術庁の詳細な審査を経て,その結果,妥当と認められるものについて,設計承認が行われる。次に,個別の輸送容器が承認された設計どおりに製作され,保守されていることが点検された上で容器の承認が行われ,最後に,輸送のつど,収納する核燃料物質等が承認された設計仕様に合致し,かつ,これが承認された容器に収納されていることの確認等がされたのち,科学技術庁長官又は指定運搬物確認機関の運搬確認証が交付される。指定運搬物確認機関としては(財)原子力安全技術センターが昭和62年1月27日に科学技術庁長官の指定を受けている。
一方,運輸省は,車両への核燃料輸送物の積載方法,車両に係る標識並びに車両1台当たりの積載限度等の輸送方法に係る安全基準を原子炉等規制法に基づく運輸省令「核燃料物質等車両運搬規則」等に定めている。この規則も輸送物の場合と同様に,輸送の安全の観点からIAEAが定めた規則に基づいている。核燃料輸送物が規則で定める場合に該当するときは,輸送のつど,輸送方法が安全基準に適合するものであることについて確認がなされたのち,運輸大臣の核燃料輸送物運搬確認証が交付される。また,使用済燃料等で画一的に反復継続して行われる輸送については,申請に基づき,積載方法の承認が行われ,輸送のつど,指定運搬方法確認機関が輸送方法の確認を行い,確認証を交付している。指定運搬方法確認機関としては(財)原子力安全技術センターが昭和62年1月27日に運輸大臣の指定を受けている。
さらに,核燃料物質等を陸上輸送する場合には,あらかじめ,運搬の経路を管轄する都道府県公安委員会(以下単に「公安委員会」という。)に届け出て,届出を証明する運搬証明書の交付を受けなければならない。(運搬の経路が2以上の公安委員会の管轄する区域にわたる場合には,発送地を管轄する公安委員会を経由して届け出ることとされている。)届出を受けた公安委員会では,通過地及び目的地を管轄する公安委員会に通知し,意見を聴いた上で,運搬の日時,経路,車両の速度,車列の編成,車両相互間の距離等について必要な指示をすることができることとされている。
また,運搬の経路を管轄する都道府県警察は,状況によりパトロールカー,交通整理員等を配置するなどの措置を論じている。このほか,公安委員会においては,核燃料物質等の運搬,警備の適正な運営を確保するため,警備業法の規定に基づき当該警備業務に従事する警備員等について検定を行うなど,その資質の向上に努めている。
(2) 海上輸送の安全規制
海上輸送の場合においても,基本的には陸上輸送の場合と同様の安全規制が行われている。すなわち,運輸省は,核燃料輸送物に関する安全基準及び船舶への積載方法,標札等核燃料輸送物の運送の方法に関する安全基準を船舶安全法に基づく運輸省令「危険物船舶運送及び貯蔵規則」等に定め,規則に定める場合に該当するときは船積みのつど,核燃料輸送物及び運送の方法がこれらの安全基準に適合するものであることの確認を行っている。
なお,核燃料輸送物に関する安全基準は基本的には陸上輸送に供される核燃料輸送物に関する安全基準と同等であり,したがって,陸,海一貫輸送される核燃料輸送物については,原子炉等規制法に基づく内閣総理大臣又は指定運搬物確認機関の確認が行われた場合には船舶安全法に基づく運輸大臣の確認を受けたものとみなすことになっている。
他方,核燃料物質を船舶輸送する場合には,当該船舶の船長は管区海上保安本部の長に対して,放射性物質等運送届を提出することが必要であり,管区海上保安本部の長は,公共の安全を図るため,運送について必要な指示をすることができることとなっている。
(3) 航空輸送の安全規制
核燃料物質の航空輸送に関する安全基準は,航空法に基づく運輸省令「航空法施行規則」等に定められており,規則に定める場合に該当するときは輸送のつど,輸送物及び輸送方法の基準適合性について運輸大臣の確認を受けることとされている。
輸送物に関する安全基準は,基本的に陸上輸送の安全基準と同等であり,したがって陸,空一貫輸送の場合,原子炉等規制法に基づく内閣総理大臣又は指定運搬物確認機関の確認を受けた核燃料輸送物については,航空法に基づく運輸大臣の確認を受けたものとみなされる。
2 輸送の現状
我が国における原子力発電規模の拡大に伴って,発電所用低濃縮ウラン等の新燃料及び発電所からの使用済燃料の輸送頻度及び輸送量が増大している。なお,このほかに,新型転換炉(ATR),高速増殖炉(FBR)等の研究開発に伴うウランープルトニウム燃料等の輸送も実施されている。発電所用核燃料物質の輸送実績は表2−19のとおりである。
発電所用低濃縮ウランの場合,主な輸入先は米国,フランス及び西独であり,濃縮された二酸化ウラン粉末又はシリンダー入り六フッ化ウランの形態で輸入されている。また,研究開発用の高濃縮ウランの場合は主として金属ウラン,プルトニウムの場合は主としてプルトニウム酸化物として輸入されている。
一方,我が国から外国への輸送としては,現在,使用済燃料の再処理を海外に委託しているため,使用済燃料が各原子力発電所からイギリス核燃料公社(BNFL)又はフランス核燃料公社(COGEMA)に専用運搬船により海上輸送されている。海外再処理工場への使用済燃料の輸送実績は昭和63年に437トン・ウランであった。
国内における使用済燃料の輸送は,各原子力発電所から動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場へ使用済燃料専用運搬船「日の浦丸」(図2−4)による海上輸送が行われている。東海再処理工場への使用済燃料の輸送実績は昭和63年に47トン・ウランであった。
他方,使用済燃料以外の核燃料物質等は,国内においては主としてトラック又はトレーラーによる陸上輸送が行われている。このうち,新燃料の陸上輸送は米国及びフランスから輸入された後のウラン燃料加工施設への六フッ化ウラン及び二酸化ウランの輸送,ウラン加工施設間の二酸化ウランの輸送,ウラン加工施設から各原子力発電所への燃料集合体の輸送が行われている(図2−5参照)。
以上のように核燃料物質の輸送は,関係省庁による厳重な安全規制及び事業者による安全対策の下に行われており,その結果,我が国においては,昭和54年に核燃料物質の事業所外運搬の確認が行われて以来,輸送に関する事故は1件も報告されていない。
3 設計及び容器の承認
平成元年3月末現在,科学技術庁長官の承認を受けた核燃料輸送物の設計は74形式であり,科学技術庁長官の承認を受けた輸送容器は11,356個である。また,同時点で,運輸省海上技術安全局長の承認を受けた核燃料輸送物の設計は16形式であり,運輸大臣の承認を受けた輸送容器は161個である。
4 輸送の安全基準等の整備
現行の我が国の輸送の安全基準は,IAEAの放射性物質安全輸送規則(1973年版)に基づいて当時の原子力委員会において作成された「放射性物質等の輸送に関する安全基準について」(昭和50年1月)をもとに,総理府令,運輸省令に具体的に定められている。
その後,放射性物質の輸送に関する安全基準,安全評価,安全対策に関する事項等を調査審議するため,原子力安全委員会に放射性物質安全輸送専門部会(昭和53年12月設置)を設け,このうち基準に関しては同専門部会の下に安全基準分科会を設置し,昭和59年9月にIAEA理事会で承認された1985年版IAEA放射性物質安全輸送規則の国内法令への取入れ等について調査審議を行っている。また,緊急時対策等の安全対策に関しては,同様に安全対策分科会を設置して調査審議を行っている。
返還廃棄物の輸送の安全性については,昭和59年9月に返還廃棄物輸送分科会が設置され調査審議が進められ,放射性物質安全輸送専門部会で審議の後,海外再処理に伴う返還廃棄物輸送の安全性について」(昭和62年9月)としてとりまとめられ,原子力安全委員会に報告され了承されている。(昭和62年10月)
プルトニウムの航空輸送等の新しい輸送の安全性については,昭和59年9月に新型輸送分科会が設置され調査審議が進められている。また,IAEAにおける放射性物質安全輸送規則の検討に対応して,安全基準分科会ワーキンググループ(平成元年1月設置)において放射性物質の海上輸送及び航空輸送の共通事項に係る安全性についての調査審議及び特定の放射性物質の海上輸送に係る安全性についての調査審議が進められている。
一方,科学技術庁,運輸省,海上保安庁,警察庁及び消防庁からなる放射性物質輸送関係省庁は,安全輸送対策等について連絡会を設けて協議を行っており,昭和59年2月には事故時安全対策に関する措置について合意している。